secret


▼ 本部で洗濯

「あれっ、スモーカーさん」

 とある晴れの日の昼下がり、海軍本部の上層の中庭で、珍しい人物を発見した。わたしからすると見慣れた相手ではあるのだが、しかし彼をここいらで見かけることは滅多にない。衣服がてんこ盛りの洗濯物かごを抱えたまま歩み寄ると、どうやら向こうもこちらに気づいたようだった。

「ナマエか。……やたら大荷物だな」
「おつるさんのお手伝い中なんですよ。スモーカーさんこそ珍しいですね、なんでこんなとこに?」
「仕事だ。青キジに待たされてる」
「それは長くなりそうですねえ」
「まァな……」

 わたしから言っといてなんだが、この信用のなさ、クザンさんはもう少し危機感を持った方がいいと思う。

 たらいに張った水で洗濯物を濯ぎながらちらりと目をやると、スモーカーさんは真新しい葉巻をくゆらせながら、ずいぶんと退屈そうに立ち惚けている。スモーカーさんはなんだかんだと何かにつけて働く仕事人間であるので、ああして暇そうにしている姿は家でもなかなか見かけない。そう考えるとどことなく面白い光景だった。

「スモーカーさん、暇なら手伝ってくださいよ」

そう呼びかけると、スモーカーさんはしかめ面をますますしかめて誰がやるかと言わんばかりの顔をしたが、一応近くまで歩み寄ってきてはくれた。

「手伝ってくれるんですか?」
「どうしておれがどこぞの海兵の服を洗ってやらなきゃならねェんだ。大体そりゃ、雑用の仕事だろう」
「まあわたし、雑用みたいなもんですし……てか別に洗えとは言わないんで、換えの水だけ運んでくれませんか。力仕事なんで疲れるんですよ」
「まァ、そのくらいなら構わねェが……」
「ありがとうございます、予備のたらいそこにあるんで、水張ったらこっちに運んどいてください」

いやあ、ほんと地味に助かった。わたしの細腕でもできないわけではないとはいえ、あれは結構重いのだ。片付けるときは水の量が減ってるのでましなのだが、特に最初が一番重い。まあスモーカーさんからしたらコップに水をよそうくらいの労力だろう、きっと。
 ごしごし洗濯板と擦り合わせていると、スモーカーさんがひょいと二つ目のたらいを置いてくれた。ありがとうございます、と言うと、スモーカーさんは返事代わりに軽く相槌を打つ。そのまま斜め後ろから動かない様子からして、どうやらわたしの華麗なる洗濯作業を眺めることにしたようだ。

「クザンさん、やっぱり遅いですね」

 ふわふわ泡を舞わせながら、スモーカーさんにたわいもなく話しかける。彼は同意の言葉を口にしつつ、わたしの仕事に気取られたように心ここに在らずだ。ぼうっとしているなんて珍しいなあ、なんて考えつつ、わたしは正面を向いて洗濯を再開する。

(これも企画用に書いてたもの。展開の転がし方を考えていなかったので普通に没に)

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