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ジェイド・カーティスはその日とても終始上機嫌だった。彼が本気で笑っているところなど滅多にどころか一度として目にしたことのないマルクト軍の兵士たちは顔を引きつらせた。そんなことに構うことなく執務を終えるとジェイドはやはり上機嫌で仲間たちが滞在している宿へと戻っていった。
ジェイドは宿に戻るとチーグルの子供と戯れているであろう赤毛の子供がいる部屋に向かった。買い出しから戻ってきたらしい女性陣はそんなジェイドを見るなり顔を見合わせた。満面の笑みのジェイドなど天地がひっくり返ってもまず有り得ない。何かよくないことが起きる前触れかと顔を真っ青にするほどであった。
部屋に入るなり鍵を閉めてしまうと思った通り戯れている赤毛の子供を見やった。


「ジェイド、お帰り。今日は早かったな」

「ええ、今日はピオニー陛下の脱走もありませんでしたから」

「へぇ、珍しいこともあるんだなー」

「いつもこうなら有り難いんですがねえ」

「無理じゃないかなあ」


ルークは苦笑した。そうですね、とジェイドは同意してベッドに座っているルークに近づき短い髪の毛の一房すくい上げた。不思議そうに見上げる翡翠の瞳。


「どーかしたか?」

「いえ、とある方と話した折に罰ゲームの話題が上りまして」

「罰ゲーム? 賭け事でもしたのか?」

「いいえ? 単にそういう話題になったというだけですよ」

「そっか。まあ、罰ゲームって聞くだけでヤな響きだけど」


そうでしょうね、とジェイドは心の中だけで呟いた。己と関わり合いになって碌なことがなかったであろう子供の言うことだ。実感がこもっているのは無理からぬ話である。


「ルーク」

「ん?」

「私と賭けをしませんか」

「やだ」

「そう言わずに」

「だってこの展開だと罰ゲームがあるって言うんだろ!?」

「察しがよろしくて大変助かります」


とんでもなくイイ笑顔でそう言われたルークは顔を引きつらせた。追い詰められてとうとう押し倒された。どうしようもなくなってしまい、忙しなく視線が動くルークを見下ろしながらジェイドは意地の悪い笑みで告げた。


「さあ、どうしましょうか?」


この状況で質問されるとは思わずルークはさらに困惑したようだった。

(大混乱ですねえ……ま、そこが可愛いんですが)

首筋を柔く撫でるとルークの身体はびくりと震えた。ジェイドはやはり意地の悪い笑みを浮かべ、再度ルークに問う。


「どうしますか、ルーク?」


ルークは小さく唸って、悔しそうに呟いた。


「好きに、しろよ……っ!」





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