「シュウ、付いてきてくれてありがとう。頼もしいよ」
「いや、こんな訳のわからない所で辰也1人…ってのは不安だからな。それに、久しぶりに話もしたかったし」
「オレもだよ」



教室から出た虹村と氷室は辺りを見回しながら慎重に廊下を進む。手始めに、教室を出て近くにあった左側の階段を下りる。上に行く階段がなかったので、どうやら自分達がいた場所は最上階だったらしい。階段を下りきれば、そこには2という文字。この建物は3階建て、と頭に入れた。



「はー……親切なこった。ご丁寧に「←職員室」って書かれてやがる」
「迷わないようにしないとね」



虹村が指さした先には確かに「←職員室」という文字。氷室は赤司やなつめが待っている教室までの道のりを忘れないように頭を働かせる。



表示通り2人は矢印の方向に曲がり、廊下を進む。全くと言っていいほど順調で、卒業生にも遭わない。何かの前触れ?とも考えられるが、目の前の職員室が先である。2F校舎の1番奥。そこに職員室が鎮座していた。職員室に辿り着くまでに通った教室のプレートには、2−5、第1学習室、第2学習室、進路指導室と書かれてあった。見取り図を作る時に必要になるだろう、とそれも覚えておく。



「……ここか……」
「オレが先に入るよ。仮にも教師だからね」



おう、頼むぜ氷室センセー。と虹村が言う。そんな虹村に苦笑しながら氷室はゆっくりと職員室の扉をスライドさせた。鍵はかかっておらず、滑りは良い。恐る恐る中を覗くと、人影は全く無く、静けさに包まれていた。少し足を踏み入れて、すぐ横にある電気のスイッチを押してみるが、電気は点かない。点けなくても中は見えるので問題は無いのだが。辺りは暗いはずなのに問題なく見える、という不自然さが、より不気味さを彷彿させた。



「…誰も、居ないみたいだ。シュウも入っていいよ」
「了解」



氷室が足を進め、キョロキョロしながら職員室内を見回す。そんな氷室を見つめながら虹村は職員室に足を踏み入れる。虹村の足が職員室に入ったその瞬間、職員室内にビーッ!というけたたましいサイレンが響き渡った。ビクッと全身を震わせ、反射的に足を外に出すが、もう既に遅かった。中にいる吃驚した顔の氷室と目が合う。氷室の顔がぼやけ、聞こえてきた放送と氷室の緊迫した表情と声を最後に、虹村の体はバタリと床に倒れ込んだ。





















『2616、虹村修造。校則第7条違反により、第10条に従って半日間の停学処分とします』
「(校則なんてもんがあんなら、最初に、言え…よ、な……クソ……、)」
「シュウ!しっかりしろ!シュウ!!」






































「緑間、高尾くん!お願い着いてきて!!」
「藤崎さん危険です!誰か他の者を!」
「何言ってるの赤司!虹村に何かあったんだよ!?グズグズしてられないでしょう!」
「、しかし」
「……大丈夫っしょ赤司。俺の目があれば卒業生がどっから来るか分かるし、いざとなったら真ちゃんが藤崎さんの事運ぶから!」
「……頼んだぞ、緑間、高尾」
「百も承知なのだよ」
「なつめ先輩、気を付けて下さい」
「……30分。タイマーを見て私達が戻って来るのに30分以上掛かったら何かあったと思って」



不安げな赤司や桃井に微笑み、なつめと緑間、高尾は教室を飛び出して行く。周囲に卒業生は居ない、という高尾の言葉に頷きなつめは迷うことなく左側の階段を下りていく。その迷いのない判断に高尾は驚く。足を動かしながら高尾はなつめに問いかけた。



「藤崎さん、なんで氷室さん達が左側の階段下りたって分かるんですか?右の階段もあるじゃないっすか」
「左の階段が1番近いから。それに、虹村達が教室を出てから放送が入るまで、そんなに時間が経ってないもの」
「あ、そっか」
「ここに職員室への表示があるのだよ。左だ」
「ありがとう緑間」



緑間の言う通り、壁には職員室への表示があった。周りを確認して慎重に、けれど素早く職員室へと進む。職員室への道すがら、なつめは緑間と高尾に告げた。



「戻ってからも皆に言おうと思ってるけど……、高尾くんは分かるよね?脱出ゲームやホラゲで1人行動は厳禁。挟み撃ちにされたら絶対に逃げられなくてゲームオーバーになる」
「万が一分かれて行動するってなった時には、3人1組または2人1組で行動せよ。絶対に1人になるな……ってことっすね?」
「そ。緑間も、頭に入れといて」
「分かりました」



曲がり角を曲がれば、1番奥の扉の前に人影が見える。氷室の切迫した声が聞こえれば、なつめは足を動かすスピードを早めた。氷室はなつめの駆けてくる足音に気付き、ガバッと頭を上げる。どこか安心した表情になった氷室。



「虹村!!氷室くん!」
「藤崎さん……!シュウが……!」
「高尾!卒業生はこの辺りにいるか!?」
「大丈夫!この辺りには居ないぜ!」
「虹村ッ!虹村ぁっ!!」



なつめはまるで眠りについたかのようにピクリとも動かない虹村を揺さぶる。そんな虹村に違和感を覚え、なつめは虹村の首筋に手を当てて脈をとる。ドクドク、と規則正しい振動にホッとする。鼻に手をかざせば、手の平に感じる微かな空気の振動。息はしている。…しかし、なんだ?この違和感は。嫌な予感がして、なつめは恐る恐る虹村の左胸に耳を当てる。全く聞こえてこない音に、なつめの顔は蒼白になる。



「っ、虹村の心臓が…動いてないっ……!」
「!!?心臓が……!?」
「なんで!?脈はあるのに、心臓だけ…!」
「停学処分って、こういうことかよ……タチ悪ィぜ全く……!!」
「……停学処分?それとシュウの状態が、関係あるのかい?」



高尾と緑間が、虹村と氷室が教室を出て行った後で今吉が校則が書かれた紙を見つけたことを話す。まるで氷室達が出て行ったのを見計らったように出現したそれに、氷室は眉を寄せる。



「さっきの放送だと半日間の停学処分って……ということは、シュウの心臓は後12時間も動かないことになる……!」
「……っ、脈はあるし呼吸もしてるから、死ぬことは無いんだろうけど……!」



脈はあるのに心臓が止まる意味がわからない。虹村がどうなってしまうか分からないではないか、本当にタチが悪い。となつめ達は息をつく。取り敢えず虹村を床に寝かせ、安静な状態を保つ。帰りは緑間に背負ってもらって教室に戻ろう、と決定した。氷室は開け放したままにしてある職員室の扉を見て眉を下げる。



「職員室はまだ調べていないんだ……」
「俺と真ちゃんが教室戻っちゃったら、氷室さんが職員室にいる間に藤崎さんが廊下で1人になるからなぁ……」
「氷室くん、取り敢えず入ってすぐのそこのロッカーだけ調べちゃったらどうかな。次に来た時に残りは調べれば良いだろうし」
「……そうだね。そこのロッカーなら、藤崎さん達からも見えるし、安心か」



そう言いながら、頷いて氷室は職員室に入ってすぐの数10個ある職員用ロッカーを片っ端から開けていく。何番目かに開けたロッカーの中に入っていたモノに、氷室は驚く。それを手に取り、なつめ達に見せれば、こちらも驚いたようだ。



「これは……!!」

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