辺りを警戒して俺の前を歩くのは、中学時代の先輩である藤崎さん。WC決勝後、再開するのはまだ先だろうと思っていたから、彼女と再び出会ったことに正直驚きを覚えていた。しかもこんな形で、とは誰も思わないはずだ。



中学時代、藤崎さんと虹村さんが2人で出掛けたりしているのは知っていた。そこに偶にだが灰崎が加わることも。けれど、流石にその内容までは知らなかった。だから、彼女の口から普通は聞かないような単語が飛び出してくるのは本当に驚きだった。



1番最初に俺達が集まっていた教室……2−6で、俺は虹村さんに起こされた。話を聞けば、皆が授業を受けていたりしている最中で、記憶が途切れているとのこと。あらゆる可能性を視野に入れ、色々と考えてもみるが、今回ばかりは分からないことが多すぎる。何故バスケ部だけが集められ、こんなゲームに参加させられているのか……全くもって意図が見えないのだ。



新品の教室、腕につけられた腕章とそれぞれの名札、黒板に書かれたメッセージ。そして虹村さんの状態。思い返してみても、虹村さんの今の状態は異常だ。脈拍は正常なはずなのに、心臓が動いていないというイレギュラー…どう考えても矛盾だ。"普通ならば"ありえないのだ。"普通ではない"この状況を思い知らしめる為の状態なのだろうか…。謎の校則、誰が流しているのか分からない機械仕掛けの放送……。極めつけは氷室さん達が発見したというスナイパーライフル。一体どこで使えと。頭に浮かんだ可能性はただ一つ。これを使って卒業させろ、ということだろう。













実を言うと、俺は昔銃を扱ったことがあったりする。ハワイで父さんが射撃の訓練をしてくれたことがあるからだ。まだ記憶に新しい。藤崎さんに聞かれた時に手を挙げなかったのは、まだ何が起こるか分からなかったからだ。ある程度の予想はついていたが、俺まで銃を扱えるというのを暴露するのは何だか気が引けた。それに、別に言う必要も無いのではないか?と思ってしまったのも事実だったのだ。藤崎さんのことは信用もしているし信頼もしている。ただ、彼女の実力を見たいと思ってしまった。



俺は渡されたコルトガバメントも使えるし、藤崎さんが背負っていたスナイパーも使える。命中率は高い方だ。外したことなんてない。それがどんな部位であれ、取り敢えず標的を外したことはないのだ。俺が使いましょうか、と言ってみようか、とも考えたが、やめた。藤崎さんの視線が「自分より上手い人がいる」という台詞と共に、虹村さんに向かっていたからだ。ソファーに寝かされている虹村さんの肌は冷たい。呼吸もしていて脈も正常なはずなのに、心臓が全く動いていない。冗談も程々にしてくれ、と思わずにはいられなかった。



俺は正直、藤崎さんには待機班に残って欲しかった。探索班に入らず、安全な場所で、俺達を待っていて欲しかった。けれど、この状況でそんなことは言っていられない。サバゲー経験者は虹村さんを除けば藤崎さん1人であり、しかも彼女はオンラインの脱出ゲーム経験者でもある。彼女は銃も扱えるし、頭も良い。本当に、探索班にはうってつけなのだ。けれど、彼女は女性だ。桃井や、此処には居ない誠凛の女監督の相田さんと、何ら遜色もない女性なのだ。けれど、彼女は自ら進んで探索を希望する。知り合いが居るといえど、意味の分からないゲームに参加させられて、内心穏やかではないだろう。不安で、怖くて、帰りたくて堪らないはずだ。それでもそんな雰囲気を微塵も感じさせずに振る舞う彼女を、俺は素晴らしいと思う。



「……紫原、あまり藤崎さんに負担を掛けないように俺達も動くぞ。……分かったな?」
「おっけー、りょうかーい」



卒業生相手に臆せず、素早く弾丸を撃ち込む藤崎さんは、なんと言うか、やはり様になっていた。無駄のない動作でベレッタを扱い、流れるように戦っている。後ろ姿しか見ることは出来ないが、それでもその姿は頼もしかった。紫原の声で、俺は顔を上げる。目の前の階段から降りてくるのは卒業生一体。藤崎さんから頼んだ、と言われた時、少し嬉しかったのは事実だった。信用されている気がした。



俺は無言でガバメントを構えた。セーフティーを解除し、スライドさせる。懐かしいその動作に目を細める。頭に標準を合わせ、ガガン!と放たれた3発のそれは、全て卒業生の頭に命中する。バランスを崩して倒れ込んだ卒業生が足元に転がってくる。ピクピクと痙攣しながら「あ゛ぁ゛あ゛……」と腕を上げた卒業生を見下げ、とどめに2発、撃ち込んだ。



「…………、き、消え……た……?」
「…………こんな事が、」



廊下に残ったのは赤黒い血だまりのみ。卒業生の姿は何処にもない。呆然とした藤崎さんが発した声に、俺も声を漏らす。瞬きをした瞬間、忽然と消えたそれに疑問が募るばかりだ。



後退した時計の針。紫原と藤崎さんの言う通り、これは残りの卒業生の数で間違いないだろう。2−6の黒板に書かれたメッセージにも、卒業生は36、となっていたはずだ。そうすれば、この不自然に止まっていた時計の針も、その針が後退した理由も、辻褄が合う。



保健室で2時限目開始のチャイムを聞き、ストップウォッチのボタンを押して救急箱を藤崎さんが持ち出した後、俺達は校長室に向かう。校長室は保健室の隣だ。ベレッタを構えた藤崎さんが中の様子を確認し、俺達は中に入る。



「……あ、33分になってる。誰か倒したんだ。…凄いなぁ…発砲音しなかったし、鉄パイプか椅子?」
「だと思います。卒業生のスピードは全く速くないので、きっと余裕があったんでしょう」



壁に掛かっている時計を何気なく見れば、その針は1分だけ後退していた。俺達ではないから、3階か2階、今吉さんの班か花宮さんの班だろう。銃を使えば多少なりとも発砲音は響くから、多分使った武器は椅子か鉄パイプだ。そうなると、あの2班の中で武器を持っているのは銃を除くと根武谷と青峰、宮地さんと今吉さんだけだ。この4人の誰かだろう。



今銃を持っているのは俺と藤崎さん、会議室に居る高尾と、2階を探索している花宮さんだ。鉄パイプは青峰、根武谷、笠松さんに岡村さん。他の数名は椅子である。





























「ねぇねぇこれさー、トランシーバーだよね?」
「ホントだ!でかした紫原!」
「少し貸してくれ」
「はーい」



ベッド下を物色していた紫原が、なつめと赤司に声をかける。ほらこれー、と発見したとトランシーバーを振れば、なつめは嬉しそうに、赤司は頷いて紫原の元へと向かう。えへへ、と笑った紫原は何処か嬉しそうだ。少し貸してくれ、と言った赤司が紫原からトランシーバーを受け取り、動作を確認する。暫く弄った後、コト、と近くにあったデスクの上に置いた。



「……正常に使えるようです」
「これだけあれば各班2個ずつ配れるね」
「連絡ツールは貴重ですから、見つかって本当に良かった。…持てるかい?紫原」
「楽勝だよー」



赤司は本当に何でも出来るね…凄い頼りになるわ!となつめが言い、赤ちんだからねーと紫原が言う。そんな事ない、と赤司は苦笑して手近にあった紙袋にトランシーバーを入れる。この際、持ち出すことを見越したように置いてある紙袋についてはもう何も言うまい。



赤司はストップウォッチを確認し、なつめと紫原の方を向いた。



「2限目ももうすぐ終わりますね……これ以上此処には何もなさそうですし、そろそろ戻りましょうか」
「うん」
「お菓子食べたいー……」
「我慢して紫原。後で家庭科室行ったら、何か作ってあげられるかもしれないから」
「ホント!?我慢するー!」



校長室を出て、廊下を歩いて会議室へと向かう。ワーイ!と嬉しそうにしている紫原をなつめは穏やかな目で見つめるが、赤司の視線はなつめとは正反対である。そんな赤司を不思議そうに見るなつめだが、結局は赤司にはぐらかされたままだった。



「(紫原、藤崎さんにあまり無理をさせるなと言ったばかりだろう?)」
「(あ、……ごめーん)」
「(謝るなら俺ではなく藤崎さんに、だ。……まぁ、料理をして気分転換になってくれたら、それはそれで良いんだがな)」
「(何時までもこんなところに居たくないしねー)」
「(あぁ、そうだな)」




















2時限目終了まで、残り4分。
獲得アイテム
トランシーバー10台
獲得者
赤司征十郎(2602)
紫原敦(2624)
藤崎なつめ(2627)


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