夢を見ていた。瓦礫の中で、“退魔ノ剣”に刺さっている自分。嫌な夢だな……夢なら早く覚めろよ、と少し自暴自棄になって何処か他人事のように考えていた。



空を見上げていれば、少し陽気で、ずっと聞きたかった声が聞こえた。



「“アレン”!そんなトコで何刺さってるんですか、“アレン”ってば!」



呆然とした。だって、目の前にマナが居る。ピエロの格好をした、自分の大好きなマナが居る。



「ほらほら“アレ○”早くッ!お客が待ってます!!」
「マ、ナ……?」
「ずっと待ってたんですよ“ア○○”!ほら〜〜!!」



ぴょんぴょんと跳ねてこちらに手を伸ばしているマナ。笑ってる。スゴイ笑ってる。



前言撤回、いい夢だ。



「急げ急げ“○○○”〜!」
「ちょっ、おいマナっ!」



僕は「○○○」じゃないよ、マナ。「アレン」って、ちゃんと呼んでよ。




















“呼ンデ”



















自室で寝ていたアレンの傷が疼いた。それに呼応するように、アレンも上体を起こす。その雰囲気はいつものアレンからは考えられない位の異質のモノだった。



アレンが起きたことに気付いたティムキャンピーが、トイレだろうか?と目を擦っている。



ギョロ、とティムキャンピーに向けられた目は、果たしてアレンの意思だったのだろうか。



『アレン』



不意にアレンの自室に響いたソプラノ。その声は少しだけ掠れていて、寝起きであることを物語っている。片手でグ、と体を支えて起き上がる奈楠。髪は少しボサボサだ。私服から覗いている素肌には、所々に包帯が巻いてある。



『起きた……?アレンの傷治しに来たはずだったんだけど、リンクのベッドで寝ちゃった……。やっぱり夜中に来るもんじゃないねぇ、はは……熱は?引いた?』
「………………奈、楠…?」



パチクリと目を丸くして奈楠を見つめるアレン。そんなアレンを依然苦笑しながら奈楠は見つめている。吃驚して何も言えないらしいアレンに奈楠は近づき、椅子の上にあった黒いシャツをバサッとアレンに掛けた。



「な、何すんですか奈楠!?」
『いや、その、なんて言うか……ッ、うー、アレンお願い、前のボタン閉めて……(あー、もう無理これ以上は直視出来ん)』



少し恥ずかしそうにしてアレンにシャツを着るように言う奈楠。なるほど、と何処かニヤニヤしながらアレンはシャツを着た。奈楠は少し眉を下げながら、指でアレンの傷をなぞる。それにアレンはピクリと反応する。



「ちょ、奈楠……ッ」
『……流石に、傷は残っちゃった……か。時間経っちゃったしなぁ………ごめんね』



本当に苦しそうに謝る奈楠をアレンは引き寄せた。そのアレンの突然の行動に、奈楠は少し吃驚するが、いつもと様子が違うアレンに気付き、その背中に手を回そうとした。



「奈楠・本多ッ!!!!起きたのなら出てきたまえッッ!!!!」
『あ』



パ、と離した腕を足の横に戻し、アレンと2人で扉に向かう。そこには、極寒の中2時間以上廊下に立っていたリンクが居た。体が寒さ故かブルブル震えている。



「何してんのリンク?」
『えっ、まさかずっと廊下で待ってたの!?起こしてくれれば良かったのに!』
「いくら私でも婦女があられもなく寝た空間で仕事が出来るかーッ!!」
『だから起こせばよかったのに』
「そ、それは……ッ(気持ちよさそうに寝てたから何て言えるか……ッ!!)今度私の仕事を妨害したら訴えますよ奈楠!!!」
「そうだよ奈楠、ラビとか神田だったら襲われてたよ。僕だったから良かったけど(本当は良くないけどね。すっごいドキドキした……。寝起きの奈楠、色気が半端ない)」
『大丈夫でしょ、ラビと神田は私みたいなのに発情しないって』
「そんな事を言っているのではない!」
「リンクもキンキン叫ばないで下さいよ、頭痛いし近所迷惑ですッ!」
「あっコラ!!」



あまりのリンクの五月蝿さに思わず部屋の鍵を閉めたアレン。ドンドンとリンクは扉を叩きつける。



「開けなさいウォーカー!コラッ!これは立派な職務妨害だぞ!!」
「(そーいや何か夢見てた気がすんだけど、何の夢だったかな……)」
『……アレン、大丈夫?』
「ん、何が?」
『……んーん、何でもない』
「!?うん(あ、熱のことか)」
「分かりました……キミがそのつもりなら、奈楠と夜中の密室で2人きりだとリナリー・リーや神田ユウ、ブックマンJr.に行ってきます」
「神田はともかく、リナリーとラビは任務で居ないじゃないですか」
『あれ?でも確か夜中に帰ってくるって室長が言ってたような……』



「あら、リンク監査官?」
「ホクロ2つじゃん、部屋に入んないで何してんさー?」
「おや、丁度良かった。実は「ごめんリンク!!!!!!」分かれば良いんです」



任務帰りにアレンの見舞いに来たらしいリナリーとラビが通りかかり、その声を聞いたアレンが急いで扉を開ける。ふふ、と笑いながら奈楠はリナリーとラビに向かっておかえりと言った。抱きついてきたリナリーをふわりと受け止める。



『おかえりリナリー、ついでにラビ』
「奈楠!ただいま!!」
「俺はついでなんさね!?」
『冗談だって』




















兆し

(段々貴方が消えていくのを)
(私はただ、見ていることしか)
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