Nightmare Crisis

28、そして、ワールド・エンド

 明歩は上原の日本刀を手にしながら、ふらふらと山の中を彷徨っていた。ぼさぼさになった髪の毛、泥や帰り血まみれのセーラー。あの時の育子や、彩花とそっくりだろうと思った。そう、惨劇の始まりの……。

 不思議な事に、昨日はあんなにもたくさんいた筈のゾンビが見当たらない。

 あのおかしな兄妹どもが始末してくれたお陰だろうか……今となっては、あの兄妹の事も、それからゾンビとかいう信じがたい存在も、最後に目にした北山の不気味な姿も、もはやどうでもよい。

 そもそもあれは全て真実のものだったのか――、それを確かめるにはまず、人里に辿り着く必要があるわけで。

 明歩は山道を出、もうすぐにでもどこか人のいる場所に行けると思った。

――とにかく電話を貸してもらおう。スマホの充電も切れちゃってるし……

 ああ、こんな姿で家に帰るなんて。とんでもないな。何があったのか説明が難しそうだな――とにかくお風呂に入りたい……お風呂に……。

「動くなっ!!」

 明歩が立ち止まらなかったら、きっとこの銃口達は容赦なく火を吹いていた事であろう。武装した団体が明歩に向かって吠えた。

「おい。生存者なのか?」
「いや、我々の言う事を聞き分けたから生存者だろう。……君、自分の名前は言えるかね」
「……? え?」

 外が……やかましい。

 上空部にはけたたましくヘリが飛び交っていて、ここから見える街の景色は――あちこちから火の手が上がっているように見えるのは気のせいか? サイレンや町内放送が鳴り響いているのがこちらにもよく聞こえてくる。

「本部とすぐ連絡を。この子を保護しよう」
「分かった、ヘリの手配を」
「……」

 明歩は悟った、悪夢はまだ、終わっちゃいない。一晩立てば全てが元通りになる等とは都合のいい驕りだった。

「家に……、家に帰して下さい……」

 死んだ魚のような目つきのままで、明歩が呟いた。

「すまないな。それは聞き入れられない、まずは色々と話を聞かせてもらう。一刻を争う事態なもんでね」
「……どういう事ですか」
「こっちが聞きたいくらいだよ。街がゾンビまみれになったなんて……ったく、こんなもんどうやって処理すればいいんだよ」

 不機嫌そうに呟く隊員の声に、明歩は日本刀を握り締めていた。使い方なんか知りもしない筈なのに、彼女には何故かそれを持って立ち回れる気がしていた。

――あれ……?

 あの時、自分が刺す直前に上原は何と言っていたか。確かこれを飲めば人類を超越出来る、などとかたわけた事をのたまっていた。それはつまり、人じゃないという事だろうか。ゾンビと同じようなもの、という事なんだろうか。

「お嬢さん、そんなわけでちょっと俺達と来てくれるね」
「……嫌」

 上原が自分に何をしたのか分からないが、何か余計な事をしやがったんだとすれば――自分はもはや人ではない。こいつらについていけば、どんな運命が待っているか分からない。危険だ。それは多分、一番危険だ!

「何を言ってるんだい。ちゃんと家に帰してあげるよ、とにかく危ないからここは……」
「嫌! 絶対に嫌ぁ!!」

 明歩が叫び、手にしていた日本刀を振りかざした。信じられない腕力を伴っていたせいなのか、隊員の防弾ベストが容易く裂けて血が吹き出すのが見えた。ついでに指先も何本か失った隊員は、膝元から崩れ落ちていた。

「ヒッ……」
「なっ……お、お前!」

 次いで警棒を手に牽制しようとでもいうのか、向かってきたそいつを軽々と避けて、明歩はしゃがみこんだ姿勢からそいつの脚を切りつけた。骨ごと断ち切られてしまった男は、支えの右脚を失いそのまま前のめりに倒れてしまった。

「な、何かおかしいぞこのガキ!?」
「おかしいのはあんた達だわっ! ゾンビだの嘘をついて……おかしな病原体を持ち込んだのもあなた達なんだ! 絶対に! 政府の陰謀ね!? わ、私はゾンビじゃない! 私は人間よ!」

――私は正しいんだ。絶対に死なない。生き延びてやるんだから

「何をわけのわからん事を!」
「くそ、もういい撃て!」

 構えた男だったが、拳銃ごとあっさり手首を奪われてしまって使い物にならなくなっていた。それから明歩は夢中で走った。日本刀を片手に。もう一寸の体力さえ無くなっていた筈の身体なのに、どういうわけだろう。運動なんか苦手だったのに、それはそれは驚異的な脚力であった。

 それから、というもの。

 明歩の姿も、そしてあの双子の姿も北山の姿も――多くの謎を残したままで、彼女達の姿を見た者はいないという。



――20××年、関東を中心に死者が甦り生きた人間を次々に襲う事例が発生。
 国は現在、この異例なる事態に総力を挙げて対処している……





この世界が実はネクロノミコンによって
作られた別世界のもの、という可能性もあるね。
そして双子は北山と対峙直後に
ネクロノミコンを奪い返して
自分達はさっさとこの世界を脱したのかも。
ちなみにこの後の世界がアポカリプスです。


Modoru Susumu
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