少し離れた場所にあった建物の中に、滑り込むようにして一同は駆け込んだ。それから暁と梓が息の合ったチームワークで窓やら扉やらを封鎖し始める。
「見てないで手伝ったら?」
暁に冷たい調子でどやされ、上原も緒川も手を動かし始めた。根室はやっぱり壁に背をもたれさせたままで、乗り物酔いにでも陥ったようにすっかり青い顔をさせていた。
「……大丈夫?」
明歩がおずおずと問いかけた。
「ねえ、根室君……だっけ。何だか顔色、悪いよ」
「――だ、だ、大丈夫」
たどたどしく答える根室の額にはじっとりと汗が浮かんでいるし、とてもじゃないが大丈夫には見えなかった。発熱でもしているようで、唇からは血の気が失われつつあった。
「何なんだ、そのゾンビより厄介ってのは」
緒川がやはり半信半疑な調子で問い詰めれば、暁が視線を上げずに答える。
「全身が風船みたいに肥大した、醜い奴だよ」
「風船みたいに?」
「そう」
暁が頷いた。
「ゾンビに噛まれた奴が死んだら、ゾンビに転化するよな。その変化過程において、何らかの異常が起こるのさ――内部からの変化だったり、外部からの衝撃なんかで。……ヒルコ、って知ってるか? 日本神話に出てくる、四肢欠損の畸形の神様」
そう言って暁は、持っていた拳銃のマガジンを外した。彼のどちらかというと華奢な手には似つかわしくない、大口径の拳銃。これがデザートイーグルという殺傷能力の高い拳銃だというのは、これまで健全に生きてきた上原と緒川には分からなかった。
「イザナギとイザナミが初めて子作りした時に生まれたのが、ヒルコっていう手足の無いグニャグニャの物体だったのさ。これを神とは認めずに、二人はヒルコを海に流してしまったっていう話――親に見捨てられたヒルコは神様としても数えられず、子どもとしても数えられなかったなんて悲惨な話だな。……て、話が逸れたけど」
その話に、梓は何故か暗い顔つきとなっていた。
「これと同じで子作りの過程において何らかの手違いがあったせいで、そういうものが生まれてしまった――ちょっとしたミスや通常とは異なるイレギュラーな事が起きると、脆いもので対処しきれずにおかしな物が作られてしまうんだ」
「つまり、普通のゾンビだけでも厄介なのに輪をかけてヤバイのが出てくる事もあるぞ、と」
「……うーん、ま……極論だけどそうだな」
長い遠回りをした暁の話だったが、結局はそんな風にさらりと返されてしまった。やや納得していない風ではあったが暁はそう言ってから皆に姿勢を低くするよう促した。
「一先ず、今は静かにしててくれ。あいつらが過ぎ去ってくれない事には俺達も動きたくない」
「そんなご大層な武器を持っているのに、それでも相手にしたくないのか? そのゾンビは」
「嫌だね、せめて戦車にでも乗らなくちゃ」
見た事の無い生物なだけに想像の範囲でそいつの姿を思い浮かべ、それから上原が「ふぅん」と短く呟く。
このヒルコ?って可哀相だよね
でもそのまま流されたヒルコが拾われて
エビス神になったって話もあるんだよね。
ヒルコって漢字だと蛭子って書くそうなんですが
えびすとも読めますしね。
しかし蛭子だとどうしても蛭子能収を思い出して怖いよな
あのオッサンのエピソードがどれもマジキチこえーよ
本当かどうか知らないけどw
あとヒルコと言えば妖怪ハンターヒルコですよね!