Nightmare Crisis

21、ああ、苦しい

 いくらそんな事を説明されたところで、実感が沸かない――そりゃあ、今しがた動き回っているゾンビだって十分に現実離れした存在ではあるが……。

 それから梓が、その場に腰を降ろした。

「梓?」
「お兄様、少し眠っても?」
「……構わないよ、休める時に休んでおいてくれ」
「こんな時によく眠れるな」

 すかさず緒川が嫌味でも何でもなく、ささくれ立った神経のままにそう言った。梓はそんな事は意にも介さずにその場に寝転ぶと、胸に大事な我が子を抱くように拳銃を持ち、それから目を閉じた。

「……」

 長い黒髪がはらりと床に落ち、梓はその場に眠り始めてしまうのだった。そんな彼女の似つかわしくはないくらいに安らかで、聖母じみた寝顔を見つめながら上原はため息と共に欲たましい生唾を飲み込み、それから首を横に振った。

 自制を強いるようにそこから目を逸らし、上原は唐突に痛み出した先程の腕の傷を押さえた。

「ってぇ……」
「大丈夫か?」
「平気……くそ、ズキズキする」

 心配そうに尋ねる緒川にそう告げ、上原は素人のやり方で止血されたその腕にそっと手をやった。その様子を暁が横目でちらりと一瞥する。何か言いたげではあったが、結局彼は何も言わないままだった。

「なぁ」

 緒川がぽつりと呟いて、それから続けた。

「俺も少し……仮眠でいいから取らせてくれ」
「代わりに見張れと?」

 暁が言葉少なに問いただすと、緒川は頷くばかりなのであった。

「――ああ。けど寝てる隙に俺めがけてそのピストルぶっ放すのはやめてくれよ」
「そのつもりならもうとっくにやってるけどね」

 あれだけ行動を共にするのを反対していた緒川だったのに、自らそう切り出してから彼は壁にぐったりと背を預けてしまった。

 本当に憔悴しきった顔をさせて、今にも死にそうな顔にさえ見えた。

「明歩、ごめん……俺、少し休むよ」
「う、うん……」

 明歩が振り返りつつ、不安げにそう言った。明歩の傍では依然、根室がぐったりとしていた。それは単なる疲労からそうなっているものにしか見えないが、明歩は何だか胸騒ぎを覚えてならなかった。
 二人分の寝息が落ち始める室内を静かに立ち、上原が隣の部屋に移動していくのを暁は見逃さなかった。

「おい、どこに?」
「――ちょっと一人になりたいんだよ」

 こう言っては悪いが、皆の辛気臭い顔を見ていると腕の痛みが加速されるような気がした。少しくらい一人にさせてほしい、上原は振り返る事もせずに隣の部屋へと移っていた。

 その部屋の空気から解放されると、僅かばかりに気持ちが軽くなったように錯覚する。上原もその場に座り込み、脱力したように肩の力を抜いた。

「……あぁ……」

 今、家はどうなってるんだろう? 父や母も、この馬鹿げた事態に巻き込まれて……? 取り出したスマホの電波は圏外を表示していて、山奥なだけに元々存在しなかったのか判別がつきにくかった。

「……おい」

 その声に上体を起こすと、暁がこちらを見下ろすようにして立っていた。何をするのかと思えばこちらへ近づいてきて、目の前に座り込んだ。

「何だ?」
「その腕、かなり辛いんだろう」

 指摘され、上原はちらと止血帯の巻かれた自分の腕を見下ろした。確かにその通りで、熱を持ったように痛むその腕はもう限界だと言わんばかりに悲鳴を上げていた。逃げるのに必死になりすぎたあまり忘れていたのだが、ここへきてその痛みは加速し始めていた。

「……そうだけど」

 ぶっきらぼうに返し、正面を見つめれば愛しい梓と同じ顔をした男の姿。

「それが何か? お前にどうにかできるのかよ」

 ついトゲを含んだような言い方をしたが、暁は気に留める様子もなく言った。

「出来るよ」
「……は?」
「どうにかしてやるよ、それ」

 そう言って暁は近づいて来ると、腰のベルトに差してあった鞘から両刃のナイフを抜き出した。

「お、おい」
「お前に刺すわけじゃない」

 傷口に刺して、血でも抜かれるものだと思い身構えたがその思惑とは違うらしい。暁はそれから、自分のカッターシャツのボタンに手をやった。一番上、二番目、三番目とボタンを外していき、それから前ががら開きになった。

「……?」
「見える部分に傷が残ると梓が五月蝿いんだ」
「……どういう――」

 意味が分からずに見守っていると、暁は両手に構えたナイフを自分の腹部に突き立てた。

「っ……!?」
「――お前、梓に惚れてるんだろ」
「えっ、あ、いや……て、ていうかそんな場合じゃ! 何刺して……っ」

 言っている事とやっている事の伴わないその行動に、上原がどこに驚けばいいのかあたふたとする。暁はナイフを引っこ抜いて、血の付いたそれを床に置いた。




このタイミングでアンネちゃんは
イヤンなフラグを拝受してしもうたんや。
妖怪ハンターヒルコ面白いよ!
ホラーってか馬鹿映画かな??
スプラッターだけどテンポが速いというか。
原作の稗田礼二郎ファンからは総スカンだったようだけど
私はアリだったかなぁ。
確かにキャラ全然違うもんね。
漫画だとかっこいい稗田礼二郎が
映画だとキンチョールもってオバケ退治してた


Modoru Susumu
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