Nightmare Crisis

19、乱心の中で

 当然だろう、こんな会話を聞いてから何故そんな事が言えるのかと。この独断に緒川が真っ先に反対を寄越す。

「お、お前、何考えてんの!?」
「だって、武器持ってるし……とりあえず下山するくらいまでには一緒に行動してもいいんじゃないか」
「馬鹿!」

 緒川が首を横に振って上原の腕を握った。

「あんな信用ならないのに引っ付いてったところで……」
「じゃあ、俺だけでも行くよ」

 言いながら上原がチラリと梓を横目で窺った。相変わらずその立ち振る舞いは上品であり、その手に握られた物騒な拳銃等は似つかわしく無いように思えた。

「お前達は好きにしろよ」
「……お前……」

 何か信じられないものでも見るような目つきで、緒川は上原を見つめていた。何か言いかけたその瞬間、暁が叫んだ。

「……おい!」
「?」

 暁は何かを察知したのかすぐさま近づいてくるなりに叫んだ。

「ここは……、そろそろマズイぞ。やばいのが来る」
「え?」

 上原も緒川も二人して暁の鬼気迫る顔を見た。上原はともかくとして、緒川の方なんかはもはや何を信じれば良いのか分からないような目つきでいるのだった。

「やばいのって何だよ、これ以上変なのがいるってのか」
「いる。……俺達でも相手したくない」

 そう言って暁が梓とアイコンタクトを交わした。

「武器が通用しにくいのさ、そいつの特性としてな」

 暁が何故か鼻と口とを学ランの袖で覆い隠した。

「強烈な悪臭させてるから近づかれると一発で分かるのは救いだがな」
「悪臭? そんなものしないが」

 鼻から信じる気などない緒川は、例えその匂いが漂っていたとしても信じなかったのかもしれない。しかしながら、上原にもその匂いは感じ取れなかった。

「信じる、信じないは勝手よ。兄様、早く身を隠せる場所へ行きましょう」
「……そうだな」
「待ってくれ! 俺も行くよ!」

 上原が荷物を持って駆け出したのを、緒川と明歩が慌てて追いかけた。根室はもう、ショックのせいでずっと無言のままであったが。

「う、上ちゃん……正気なのか? こいつら、嘘言って俺達をどこか逃げ場の無い場所にでも連れ込むんじゃないのか」

 それでも良かった。

 上原は梓の揺れる黒髪を見つめながら思っていた。お前になら殺されても構わないよ、いかように俺の身体を使われたっていいんだ。汚いゾンビ共に屠られ、食われるくらいなら。



やっぱあぶねーお上原
この世界の登場人物なだけある


Modoru Susumu
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