Nightmare Crisis

18、血の中傷

「――あ、ゾンビ発見。あれは多分……鈍い奴と、まあまあ賢いのが一人ずつ。大した奴じゃないさ」
「了解よ、お兄様」

 サイレンサー付きのオートマチック拳銃を下段に構え、シューティングゴーグルを掛け直した梓が長い髪を闇夜に靡かせながらつかつかと前に躍り出る。

「お兄様は横を。私はその反対を、殺ります」
「分かった」

 対する暁も、デザートイーグルを左に持ちながら臆する事も無くそこへ飛び出していた。ゾンビ達は、逃げ遅れた教師の腹をかっさいて腸やら肝臓やらを引っ張り出していた。

「ァアアアアアアア〜〜〜!」

 腹をめちゃくちゃに裂かれた男性教諭が絶叫したが、もはや助かる見込み等は無い――それから、二人の気配に気付いたゾンビがすぐさま起き上がった。

 先に動いたのは梓の方で、無言で拳銃を躍らせるとすぐさま引き金を引いた。その間に飛び掛って来る死者に対しては、拳銃の下に同時に逆手に持ち控えていたナイフ(いわゆる銃剣と呼ばれるものだろう)を使用する。

 彼女の長い髪の毛が翻り、ともすれば夜の気配に溶け込みそうな程に黒い漆黒が舞う。暁も反対側から来る死者達を迎え撃った。

 デザートイーグルのような大口径の拳銃は、撃った直後の反動も半端なものではなく出来る隙も大きなものだ。それを見越して動かなくては、容易に反撃にあうだろう。暁はすぐにはそれを使わずに、まずは同じく装備していたナイフで応戦する。

 それは実に良い滑り出し、と言っても良かっただろう。苦戦するでもなく、順調にその場にいた死者達を片付ける事に成功した。

「梓、大丈夫か?」
「ええ、問題は……、っ!?」
「どうかしたのか?」

 何か異変に気付いたのか、梓がばっと身構えた。暁もようやくそれを察知したが、恐らく危険視する必要はないだろうと思い特に武器を向ける事もしなかった。

「ま、待って!」

 そしてその予想通りに、現れた人物達に二人は目を見張った。

「――お前ら……、な、南雲か?」

 先頭にいたその人物――確か名前を上原と言う――が何故かこちらの顔を見るなり大袈裟なくらいにまで驚いたのが印象的だった。

 上原と、そして緒川、明歩、そして悪夢から目覚めたばかりのように顔色の悪い根室(ちなみにこの根室の名前は、南雲兄妹は知らなかったが)がいた。

 暁がまずは上原の腕に巻かれた包帯代わりのタオルにちらと視線を落とし、顔をしかめるのだった。

「ガラスで切っただけだ」

 上原に代わり答えたのはスコップを持った緒川だった――「ゾンビと格闘して、その時に切ったんだ」。

 ちなみにそのゾンビが、同じクラスメイトである榎本であったという事実は伏せたままであった。言ったところで後味の悪さが加速されるだけだし、この南雲兄妹が果たして榎本という生徒を把握していたかも謎だった。

「結構、深そうだな。その傷」

 暁がそんな風に言ってくるのも、上原は何だか意外だった。
 しかし傷を負いながら、ここまでの失血によって頭もふらついていたし、痛みも容赦なく攻め立ててきたが――梓の姿を見た途端にそれも耐えられる気がした。

 が、今はそんな恋心に浸っている時じゃあない。何たって……そうだ。二人にはこの状況を作った黒幕疑惑がかけられている。

「その武器と……格好は何だ」

 上原が苦笑交じりに呟いた。

「銃声が聞こえて、生存者がいると思って向かってきたんだ。宿舎の方から、ずっと」

 そう言って上原が辿ってきた道を振り返る。いくつかの交戦の後を見届けて、暁が感心したようにため息を漏らすのが分かった。

「その傷と、そのチャチな武器一つでここまで? それは凄い。尊敬するよ」

 すかした暁の口ぶりのせいでそれは随分と嫌味なものに聞こえたが、恐らく本心で言っているのだと思う。チャチな武器、と言われたそのデッキブラシを下げながら上原が問い詰めた。

「そんな事よりも、だ」

 梓の視線を気にしつつも、上原は暁ににじり寄る。

「どういう事なんだよ。その気合の入った武器――まるでこうなる事を分かっていたみたいな準備の良さだ」
「……否定はしないさ」

 暁がふっとため息をこぼすように言えば、今度は上原ではなく緒川が問い詰める番であった。

「じゃあやっぱり、お前達がやったっていうのか?」
「間接的にはそうなっちゃうのかな……ねえ、梓」
「……どうでしょうね」

 はっきりとしない言い草に緒川がついに声を荒げるのが分かった。

「何だよそれ!……お前達がやったていうんなら俺は容赦しねえぞ、すぐにでもこの場でぶっ殺すからな」
「ま、待てよ緒川」

 上原がそれを止め、もう一度悪びれる気配も無い二人を見た。

「説明してくれないか? どういう事なのか……納得いくように」
「それは別に構わないけども……」

 梓が極めて怠惰そうに返せば、暁がやや驚いた風に肩を竦めた。

「まさかこいつらと協力する気か?」
「……協力? 何故そんな事を……」
「いや、待てよ」

 兄妹はこちらをさておきに、何やら勝手に討論を交わし始めた。

「こいつら、アイツと近づくのに使えるかも」
「何を言っているのよ、兄様。近づくって……」
「梓、こいつら万が一の時に利用価値あるな」
「――でも……」

 そのやり取りは声を潜めるでもなく、こちらに筒抜けなのだが……。何やら自分達を危険な目にでも晒そうというのか。そんな事前提で一緒についていこう、なんてとても返事できたものでは無いが。

「……おい、南雲」

 上原が二人に向かって呼びかけた。

「お前達と行動を共にしたいんだけど」
「はっ!?」

 驚いて真っ先に声を上げたのは緒川だった。



この兄妹双子面白いよね。
実はこの二人がインテグラルの
最初の主人公候補だったんだけど
ナオルイとどことな〜く被るってのと
おっさんとショタの方が萌えるし燃えるだろーと思い
サージさんとシノになったわけですね。
あとシノって名前なんですけど
詩絵ちゃんの「し」と法人の「の」って
頭文字とってるんですよね。すげーどうでもいい裏話。


Modoru Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -