終盤戦


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28-1.病める人に慰めを、恵みたまえ愛の御母



 徐々にだが、平穏――とまではいかなくとも落ち着きを取り戻し始めた中、白い防護服にミを包んだ集団がゾンビの駆除に乗り出し始めた。

「駆逐隊! 迂回しろ迂回!」
「ようし、そっちだ! 一気に焼却処理しちまえ」

 一箇所に集められ、何やら檻のようなものに無理やり敷き詰められたゾンビ達がそれぞれ手を伸ばしているのが見えた。

『これより目標への焼却処分を行います。音声ガイダンスに従い引火性ガスを装填させ、十分な距離を取ってからバーナーに点火を……』

「しゃらくせえな、一気に燃やしちまえよ」

 囃し立てる声がしたかと思うと、次の瞬間には防護服の抱えていた火炎放射機から炎が噴射された。

 ゾンビ達の収容された檻が赤々と炎上するのが見えた。

「やっべ、燃えすぎ!?」
「ほどほどにしとけよ、燃え移ったりしたらまーーーたハゲにドヤされちまう。……キミッ、始末書〜十枚っ」
「うはっ、似てる似てる」

 談笑する隊員達の傍らで、燃え上がるゾンビ達の悲鳴が沸きあがった。

「オオオ゛ォ゛オ゛……」
「焼き足りないか? 火力が弱かったかな、まだ生きてやがる。しぶといぜ」
「おっと、そう慌てるなよ。脳味噌まで燃え尽きるのに時間がかかるんだ。焦って手でも出してみろ、途端に齧りつかれるから……よっと」

 更に強めの炎を浴びせると、一体のゾンビが爆ぜたらしい。焼却駆除をしていた隊員達がどよっと沸くのが聞こえた。口々に「すげえ」とか「やべえ」とか言い合っている。

「――……」

 ミミューがその様子を遠巻きに、どこか不愉快げに眺めていた。

「今、何考えてるのか当ててあげよっかー?」
「えっ」

 いきなり声をかけてきたのは雛木だった。ミミューが慌てて振り返るや、雛木は小指で耳掃除をしながら興味なさそうに続けた。

「ゾンビと人間、ほんとに怖いのはどっちか?……ベタだねえ、お兄さん」
「……別にそんな事考えちゃいないよ。結論、どっちだって怖いじゃない」

 ミミューがどこか達観したように言うと、雛木はちょっとばかり面白く無さそうに腕を組んだ。それから言った。

「人間の本質なんか絶ぇっ対変わんないよ。今も昔も、ずっとね。自慢じゃないけど僕、色んなヤツ見てきてるしね。……幽霊なんかより生きた人間のほうがよっぽど怖い? そうかもね、でも結局それは多分幽霊を見たことがない人間が狭い世界の中だけで作り上げた言葉でしょ」

 雛木はやけにぺらぺらと饒舌にそう話した。

 あまり身の上話だとかをしたがらない雛木にしては珍しいな、なんてミミューは思ったが、よくよく考えてみればここにいる連中のほとんどがそれに該当する気がした……自分も含めて。そんな風に考え込んでいるうちに自然と無口になってしまったミミューを見て、雛木が何を思ったのかはっとしたような顔になった。それから、ぷいっと顔をあちらへ向けた。

「……お喋りが過ぎた。僕らしくもない」
「ううん、とても興味深いよ。今度もっと詳しく話してみてくれないかな?」
「そりゃあどうも。お世辞でも嬉しいよ」

 一部の不謹慎な隊員達の歓声の中、返り血まみれで戻ってきたのはセラだった。いつもよりも深い、漆黒の色をした瞳には何だか『何も』映していないように見えた。

 創介が、炎を背にぼんやりとしたままで歩いてくるセラを迎えるように立った。

「セラ……」
「……」

 と、呼んで正解なのか? 言ってから、ふと疑問に思った。

「――セラ?」
「違う。……でもセラと呼ばれる意識はちゃんとここにいる」

 そう言ってセラは首を振って、自分の胸辺りに手を置いた。

「じゃあ、そのアンタは……ミイってやつなの?」
「ああ。今は、な」

 聞きたいことがあれやこれやとあるのだが、それよりも先に、と創介が思い出したように顔を上げた。

「……あ!」
「どうしたの?」

 ミミューが尋ねるが、創介は次の瞬間には屋敷の中へとダッシュしていた。

「ちょ、ちょっと創介くん!? 危ないよ!」

 ミミューが慌てて止めに入るが、創介はちょっとだけ振り返ったかと思うと実に慌しく叫び返すのだった。

「ナンシーちゃんの無事だけでも確認してくるよ、俺!」

 そう言って武器も持たずに駆け出していってしまった。

「行っちゃった……」

 一真が指を咥えながらぽつりと呟いた。それに後押しされたわけじゃないが、ミミューも皆に呼びかけた。

「僕らも行こっか、色々山のように積もる話はあるけど」

 言いながらミミューがセラをちらと一瞥したが、それ以上はとやかく言わないでおいた。とりあえず、そう、今のところは。


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