18-2.永遠(とわ)に美しく
言っていることの意味はまるで分からないし理解する気も無いのだが……まりあがその視線をすいと動かした。狭い室内、おんぼろのその家は薄暗く……。
天井から下げられていた鳥篭が左右に揺れるのが見えた。中には立派な鶏冠を持つにわとりが一羽、白い羽をばたつかせていた。
にわとりがケェーケェーとけたたましく鳴いた。その声に、どこか放心していた自分の意識が舞い戻ってくるのを感じた。
「――わ、ッけわかんない事抜かしてんじゃないわよ!」
何かを思い出したように、まりあが叫んだ。それからずいっと縛られたその身体を乗り出して続ける。
「あんたらなんかすーーーぐに兄上やルーシー隊長がやっつけちゃうんだからね! べーーーっ、だ!」
舌を覗かせながら言い返すがママは何てことなさそうだ。
「あらそう。ならすぐにでもここで始末した方が得策かしら?」
まりあのすぐ目の前でママがげらげらと高笑いを上げる。カチンと来たのかまりあがその顔めがけて、ペっと唾を一つ吐きかけた。
「……」
頬についたその唾を拭いながらママが張り付いた笑顔のまま静止している。
「ちょーしこいてんじゃないわよ、くっそババア! だーれがアンタなんかの為に死ぬもんですか。どういうつもりか知らないけどねっ! ふんだ!」
食って掛かろうとするまりあの頬を、今度はお返しと言わんばかりの勢いでママが平手を浴びせかけた。
ぱぁん、と何かが炸裂したような音を一つ響かせてから、まりあが小さく悲鳴を漏らした。
「小娘が。ラクに死ねると思うんじゃあないわよ……」
「っ……」
怒りにその唇を震わせながらママがその場から立ち上がった。
「トゥイードルダム、パパを連れてきてやりなさい」
ママがぱちん、と指を鳴らして扉側にぼんやりと突っ立ったままのトゥイードルダムに指示を促す。
「ウ……」
「なにぼんやりしているの。さあ、早く」
「……」
ややあってからトゥイードルダムがその巨体を揺り動かし、その先に見える部屋の中へと消えていく。
「……?」
まりあが黙って見守っていると、その一層暗い部屋の中から戻ってくる影があった。言うまでもなくそれはトゥイードルダムであったが、何やらぶんぶんとけたたましい羽音が飛び交っている。
ここよりも更に大量のコバエ達を引き連れて、彼は戻ってきたのだ。いや、それだけじゃない。彼は何やら車椅子を引いていた。
その椅子に悠然と座っているのは何やら真っ黒な木炭のような物体だった。
小娘対BBA。
まりあちゃんが自由に動ける状態なら
実際はどっちが強いんだろうな。
このババアも一筋縄ではいかぬ曲者であろうて。