13-2.真っ白けのアルバム
「嘘つきは泥棒の始まりなんだぜ〜」
「いーけないんだいけないんだー! セラ、お前んち嘘つき一家だな。お前の母ちゃんもおんなじだって言ってたぞ」
やんややんやと児童たちが騒ぎ始める。よってたかって獲物をつつくカラスのような勢いだ。
「やーいやーい、泥棒一家……」
が、次の瞬間。囃し立てた少年の大柄な身体がぐわんと倒れた。
「きゃー!」
「せんせー、マーボーが鼻血出してるー!」
まずは机が倒れる音がして、それから女の子たちの甲高い悲鳴が相次いだ。
「うぎゃあああ〜〜〜〜!」
転んだはずみで倒れた机の上で、殴り飛ばされた少年が泣き声を上げた。坊主頭のぽっちゃり少年は痛くて泣いているというよりは鼻血に驚いて泣いているみたいだ。
その手の平にべっとりと付着した血液を見つめてまた泣いた。
「……もっぺん言ってみろよ」
泣き喚く少年の前に立ち塞がると、その体格差は一層際立っていた。セラは自身のその小柄な身体にも臆することなく尻餅を突く少年に更に畳み掛ける。
「お、俺じゃないもん! 初めに言ったのはマサアキ……」
泣きじゃくる少年の胸倉を掴んで立たせ、セラが拳を構えた。
「きゃあああああ〜!」
面白がった他の男子生徒達もその騒ぎへと加わった。多勢に無勢、とはまさにこの事であろうがセラはそれでもその手を止めなかった。
「悪者退治だ!」
「やっちまえー!」
ゲラゲラと笑いながら少年たちは乱闘をおっぱじめた。その光景を止めもせず真っ青な顔でただ震えるばかりなのは当の女教師である。
「あ……、あ、あ、後で叱られちゃう……、クレーム……処罰……減給……あ、あああ」
念仏のように何やらぶつぶつと話し始めた女教師が、ふらふらと眩暈でも覚えたみたいに足元を踊らせ始めた。そのまま額を押さえたかと思うと大げさと思えるくらいに、女優顔負けの倒れ方で崩れ落ちていく。
――僕には味方なんていない……
横目でそんな教師の姿を見つめながらセラはぎりっと唇を噛み締めていた。