08-1.もっと早くに好きと言えば良かった
その一方で、創介もやっぱり窮地であった。
「あわわわっ……」
急速にその意識が、自分の幼いころへと飛んで行くのを創介は覚えた。
――え、え、何コレ!?
まさかこれがその、走馬灯、とかいうやつなのだろうか。冗談じゃない! 走馬灯は死にかけている時に見るモンだろう?……三輪車を漕いでいる可愛らしい自分、七五三だとかで千歳あめ片手にはしゃいでいる自分、小学生の入学式や、サッカークラブに入ったばかりでゴールを決めた瞬間、初めてできた彼女、初めて髪を染めた事……やらとにかく自分の経験の多さにちょっと驚きそうになるもかぶりを振った。
――やだ! こんなとこで終わりたくないってば!
次の瞬間に現れて来たのは歴代の彼女とそれとは別に寝てきた女の子たちの顔ぶれだった。
『俺もうすぐで百人切り達成しまーす、日本人ばかりも飽きて来たので次辺りでは留学で日本に来ているロシア人の美女を狙いに行こうと思いまぁーす!』
馬鹿な発言をしているのは前々回くらいのコンパでの自分だった……苦笑いする女の子達の視線が次々に突き刺さる。もっと空気読めってんだ、俺という男は。
――ああ……
名前も顔もしっかり覚えている女の子もいれば名前さえあやふやな子だっている。ほんとに俺なんかでよかったの? こんな適当な奴で……次々と現れる女の子達の最後に、ぼうっと映し出されたのは。
「僕も、創介がいなかったら死んでた。それだけは言っておく」
――セラ……
セラは今、大丈夫だろうか? いや、あいつに限って負けるなんて有り得ないだろうけど。でも、もし、もしも……、だ。自分の事を心配してうっかり負けてしまったりなんかしないだろうか。
いやいやそんな馬鹿な。
いやもし、このピンチを凌いだとしても自分がこのガキに既に刺されてしまった後で哀れな自分の姿を見てどう思うのだろうか。泣いてくれるだろうか、それとも指差して笑われるのだろうか、いやいやいやいやいや――創介はのしかかるその物体、ミツヒロを気付けば押しのけていた。
「あだっ……、てんめやりやがったなッ」
「――うるせぇ、そろそろカメハメ波出すぞこの野郎っ!」
不思議だった。セラの事をほんの少し考えるだけなのにこんなにも動くことができる。有沢とガチンコで殴り合った時だってそうだった。それほどまでに影響をもたらすセラという存在が、自分にとって一体何であるのか――もうはっきりと、包み隠さず言ってしまいたかった。
俺はお前が好きなんだ、と。
何で私の顔が赤くなるの?///