終盤戦


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01-1.一目見て憎め



聞き覚えのない名前に、創介が反射的にごくりと唾を飲んだ。

――何だって、竹垣ぃ?

 途端、冷静さを保っていたセラがかぶりを振って叫び出した。

「違う! 僕は……っ!」

 そのセラの叫びを遮るように凛太郎が口を挟んだ。

「竹垣って……あの、前回の事件の時に騒ぎを大きくした張本人だって言われてる宗教家のオッサン、か?」
「違う……っ、――違う!!……僕はあんな奴、父親だなんて思っていない! あいつは――」

 叫ぶセラを見てヒロシのレンズ越しに見えるその目がすっと細まった。

「……やはり自分が息子だという事実は知っていましたか」
「――け、ど……だけど僕は認めていない! あいつとは会話さえまともにした事もない、それどころか、あいつが僕の事を認めてはくれなかったのに……」

 取り乱したように叫ぶセラを遮って、ヒロシが一歩前に出た。

「だから?……それは貴方自身の葛藤であって、そんな問題は僕らにとっては関係がない。一体何をしようと言うんですか、貴方は」

 訳知り気にヒロシはセラの顔を只じっと眺めた後に、ズボンのポケットに手を忍ばせた。それから、何かを取り出してちらつかせる。

「……これに見覚えは?」
「……ッ」

 クリアケースに挟まったそれは、何か古文書のようなものの切れ端のようであった。一見何の変哲もない紙きれだと言うのにも関わらず――それはやけにまがまがしい雰囲気を纏っている。
 それを見た瞬間、創介は思わず「あっ」と声が出かけたのであった。そう遠くはない、最近の事。あの不気味な魔力に呑まれた村で見た、セラが手にしていたあの紙切れ。それを使って彼はあの村全体を包む脅威を鎮める事に成功したのだが……。

「何を考えているのか知りませんけど――、貴方はこれを手に入れようと第七地区を目指しているのでしょう?」
「っ……」

 言葉に詰まったように目を見開くセラとは対照的に、ヒロシはやっぱりひどく落ち着いたままだ。

 やがて、こめかみのあたりをトントンと指先で叩きながら気難しい表情のまま続けるのであった。

「僕には微弱ながらこの古文書――ええ、ネクロノミコンの思考が読めるのですよ。昔からの因縁といいましょうか……とまあ、そんな話はさておきに」

 セラがぐっと顎を引いて、視線を逸らした。そんなセラに詰め寄るようにヒロシが足を一歩、そしてまた一歩……と進め始めた。

「こいつは、自ら持ち主を選ぶ傾向にありましてね。近頃大人しくしていたかと思ったら、また何やらドス黒い波長を放ち始めたんですよ。……目覚めた理由は分かりません、ですが……今回のゾンビ発生理由に関係しているのには違いないのは確かです。だが持ち主もいないのにこいつが暴走した理由は一体何であったのか――」

 話しながらヒロシは一同の前をゆっくりと移動する。セラは勿論、創介も、ミミューも、双子も有沢も雛木も(こいつは相変わらずの傍若無人ぶりで斜に構えちゃいるが)――皆張り詰めた空気の中、固唾を飲んでいた。



こらぁヒロシ! やめろ、やめないか!



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