07-2.結婚までは純潔でいるべし
その背中がぶるぶると震えている。次に発されたその声も同じように震えを帯びていて、多分笑いを堪えているんだと思った。表情が分からないせいで声質から感情の全てを判断するほかない、何ちゅう面倒な奴だ。
「グフ……グフフッ、ドゥフッ」
「……?」
「ぼ、ぼ、僕の事はどうなってもいいからそいつを解放してくれ! やるなら僕から先にやれ!!……とまあつまり、そういう事だ。グフ、グフフフ。あれ、つまり俺って悪者ポジション? エフッ、エフッ、エフッ……」
聞いたこともないような薄気味悪い笑い方をし、ストライカーが饒舌に続ける。
「い、いいねぇ、そういうの。笑える。笑えちゃう。ていうか笑ってるから既に! ぎひひ。なーにぃ? 泣けちゃうってそういうの? お涙ちょうだい?……かーっ、古臭いなあそういうの! 俺ぁああねえ〜〜〜〜そういう偽善的な事が大っっっっ嫌いなんだよ。自己犠牲だとかそういううっすーい」
「俺が犠牲になるなんてひっとことも言ってねえだろクソ野郎」
瞬間、凛太郎の背後から一真がにこにこの顔でカウボーイの投げ縄よろしくロープを投げて来た。見事な縄さばきで、完全に慢心していたストライカーの手からロッドが弾き飛ばされた。
「……ええ、うそんッ!?」
それと同時に有沢もすかさず動いていた。
ここで彼が刀を拾う事に執着していたら、ストライカーは迷うことなく双子めがけて襲いかかっていただろう――が、有沢はそうしなかった。ストライカーに背後からしがみついて、その首根っこをしめあげてかっちりホールドしていた。
「あがががががっ、な、何を」
「有沢! そのままマスクひん剥け!」
「何!?」
凛太郎の言葉に有沢が当然のように聞き返す。
「……だからそのバカみたいなウサギマスクを取っちまえばいいんだッ! ホラー映画の法則その六! ジェイソンの魔の手から生き残る連中は決まって最後にそのマスクを外すッ!!」
それは勿論理にかなった説明とは程遠いものであったが、有沢自身この素顔に興味があったのだろう。長く伸びたウサギ耳の片方に手を伸ばすとむんずと鷲掴みにする。
「ぎゃぎゃぎゃっ! 何するの、やめてェエ!」
「うるさいっ! そのふざけたマスクを取れ、人と話すのに被りものをしているなんて礼儀知らずが許されるか!」
「い、い、いやぁあああ! お、お嫁に行けなくなっちゃううううう! 嫁入り前なのにそんなの酷いぃいいいッッ」
喚き始めたストライカーの事は無視して有沢がそのマスクを持ち上げようとするが必死の抵抗をされる。
面白がって凛太郎がやってきて、次いで放心していた一真も興味を示したのかやってきたかと思うと一緒になってストライカーの身体を取り押さえ始めた。傍から見ればそれは完全に弱い者いじめの構図であったが――。