終盤戦


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07-1.結婚までは純潔でいるべし



 突然だけどみんなは路上でチンピラに絡まれた事ってあるかい? 金出せ、財布ごと。って。ああいう時、喧嘩の出来る奴になりたくて身体鍛え始めたけどそれだけじゃ全く通用しないんだね。うん、ほんと。よくできたシステムだぜこんちくしょう――、と、創介はミツヒロに馬乗りにされながら冷静にそんな風に考えていた。

「観念したかこの野郎、俺達に逆らうからこうなるんだぜ」

 ミツヒロがにたにたとその顔に邪悪な笑みを浮かべている。

「くそぉ……ま、負けてたまるかよ……」
「はい口がすべったー!」

 咄嗟にかわしていなかったらナイフの切っ先はもろに左目に突き刺さっていただろう。ナイフの冷たい感触が頬っぺたのすぐ隣にあって、真っ直ぐ床へと突き刺さっていた。

――こ、こいつマジでやる気だ……!!

 改めて背筋に悪寒が走って、チンピラよりもっと怖いものが今自分を押さえつけているんだと悟らされてしまった。冗談じゃない、本当に冗談ではない。

「なあなあ、ドラゴンボール読んだことある? 男なら一度くらいあるよな。ねえって言ったら殺すぜ、マジで」

 こんな時に何を言い出すかと思えばミツヒロがよくわからない質問を投げかけて来た。

 はぁ、と聞き返そうとする創介のすぐ鼻先にその冷たいナイフの感触が今度は鼻辺りにやってきていた。

「クリリンっているじゃん、クリリン。あいつって鼻ねえのな。知ってる? クリリンにしてやろっか。おい、なあ、おいったら」
「ひぇっ……」

 笑いながらミツヒロがぐいぐいとナイフの腹を押し当てて来た。思わず間抜けな声を洩らしていると、その様子に有沢が気付いたらしい。

「あの馬鹿っ……」
「足元がお留守ですよ!」

 どこかで聞いたような台詞を上げながらストライカーが電流のほとばしるロッドを掲げた。紫の電撃が弧を描くように翻り、有沢の隙を狙う。勿論、有沢だっていつもの戦いが出来ていたとしたらそんな初歩的ミスなどしない筈だったが――。

「ぐっ!?」

 それも只殴られるわけじゃない、電気ショックを受けるのだから打撃によるダメージよりもそれは遙かに深刻だ。

「くっ……」

 まずは肩膝から崩れ落ちた有沢にストライカーがもう一度そのロッドを振り被った。今度は完全に落ちた、有沢の手からすっぽりと相棒の刀が抜け落ちるのを見て凛太郎が走ろうと立ち上がる。まだ身体に痺れがあって(畜生、どれだけ電気療法されたんだ俺の身体は!)歩くとおかしな感覚があったが――とにかく。

 立ち上がり、走りだそうとするのを見計らうようにストライカーがロッドを倒れ込む有沢の首筋に置いた。

「おっと! 一歩も動かない方がキミらの為だぞぉ、このコの命が一瞬にして消えていいなら許可するけど?」
「何だと……」

 顔をひくつかせる凛太郎だったが、ストライカーがそのマスクの下恐らく笑いに顔が歪んでいるのだろう。

 ロッドの柄の部分を見せつける様に持つと、電力を調整でもするその部分を何やらいじくりはじめた。

「人間がショック死するほどのレベルって、一体いくつだと思うかねェ? その領域を俺は今目の当たりにしようとしている……ぐふ、ふふ……かの死の天使、ヨーゼフ・メンゲレが俺にもっと輝けと囁いてる……」
「……ちぃッ、このド変態が。サディストキャラは俺一人で十分なんだっつーんだよクソ……」

 凛太郎がよく分からない補足付で忌々しそうに舌打ちするのを見やり、ストライカーは可笑しそうに低い笑い声を洩らした。

「――おい。このウサギ野郎……」

 凛太郎が呟いた。

「? 何だね、エセ変態野郎ちゃん」
「まぁ、あれだ。聞け。ちょっとくらいは聞いておけ……あのな、そいつは関係ないんだ。俺を助けにきただけで……」

 普段の彼からは絶対に吐かれないであろう、そのちょっとばかりしおらしい言葉に有沢もやや驚愕したように少しだけその顔を持ち上げていた。

「ふーん。でっ?」

 ストライカーがその愛らしいマスクで小首を傾げつつ尋ねた。

「だから放せよ、お前の最初の獲物は俺たちの筈だ」

 凛太郎の言葉にストライカーは何を考えているのかしばらく俯き、何やら考え込んでいた、というよりは――俯いて、震えていた。



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