05-2.ひとりでできるもん!
それから、にたーっと邪悪な笑みを浮かべたかと思えば次に発された一言はこれだ。
「じゃ、今はお前を守るヤツもいないから思う存分痛めつけ放題ってワケだ!……あはっ、存分にやっちゃおっと」
楽しげな表情に切り替わったかと思うとミツヒロはポケットから取り出したバタフライナイフをちゃっと構えた。
「げっ!?」
「右耳からか左耳からかまずはどっちがいい〜? 両方切り取って耳なし芳一状態にしてやるよ、うははッ!」
やはりキチガイの周りにはキチガイしかいないらしい――比較的マトモそうに見えたこのクソガキも所詮はキチガイくんなのだ。ミツヒロはバタフライナイフをかちゃん、と一振りで戦闘スタイルに切り替えると途端に嬉しそうな顔で創介を追い掛けはじめるのだった。
「うわー! うわーっ!! うわぁああああっっ!」
「待て、待てー! ぎゃっははははっ!」
「助けてー、助けてェエエエッ!」
大声を張り上げながら創介が猛ダッシュで逃げだし始めた。
「創っ……」
その情けない悲鳴を聞き付けてセラがはっと振り返る。構えを解いたその隙を見計らうようにヒロシの上段蹴りがセラが振り向くのと反対の方向から繰り出された。
「あっ……!?」
慌ててセラが何とかガードする。受け見を取るのが遅かったせいなのか、それともヒロシ自身の蹴りが痛いのもあるのかその腕がじんと痺れた。
「――よそ見してる暇なんかないんですよ、竹垣」
竹垣、の言葉にセラが明らかに動揺するのが分かった。
「っ……! ぼ、僕は――」
何か言いかけようとするセラだったがヒロシは蹴りを降ろしざま更なる攻撃を仕掛けるのだった。
「あああ〜〜! ちょ、タンマ、ターンマー!」
「うはははははっ! 逃げろ逃げろーぉ! 追いつかれたらお終いだぞー! あっはははは!」
ミツヒロは涙さえ浮かべながら大爆笑していた。
それで爆笑しながらナイフ片手に、逃げ惑う創介の姿を執拗に追い詰めて行く。さながらトムとジェリーのような逃走劇だ、ただしこちらのネズミはジェリーとは違い罠も策も何もなさそうであるのだが。
「せ、セラ……」
名前を呼びかけて創介は慌ててそれを飲み込んだ。
――駄目だっ!
自分がここでセラを頼ったりなんかしたら、それこそセラに隙が出来てしまう。セラにばかり頼るわけにはいかない……創介が逃げながら必死でその考えを遮る。
「――ええい、世話の焼けるッ!」
ストライカーと交戦中の有沢が小指のリングを引っ張ると、鋭い切っ先のニードルが手の甲にチャキンッと飛び出した。
有沢は振り返る事はせずにその腕だけを背後へと伸ばした。それから何とも絶妙なコントロールでナイフをかざすミツヒロの方へと投擲する。
「あ゛い゛っ」
て、と言い切る前にその言葉が途切れた。ミツヒロがナイフを持ち上げていた腕に見事にその刃が突き刺さっている。
「おおおおお、イッデェエエ……!」
そのはずみで落としたバタフライナイフを創介が慌てて拾い上げる。ミツヒロが腕に刺さった刃を引っこ抜いた。
「な、にしやがんだぢぎしょぉ……くっそ、いってぇ! 何だっつーんだよォ〜、ぢぎしょー……」
「あわわっ……」
創介がへっぴり腰でそのナイフを構えるが、ミツヒロは相当激していると見えた。