終盤戦


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05-1.ひとりでできるもん!




 痺れの残る身体を何とか持ち上げて覗きこんでみれば、ストライカーの手首にさっくりと刺さっている小ぶりなナイフが目に飛び込んできた。ナイフというよりは、ほとんど仕込み刃や暗器のようなサイズだ。

「有沢っ!」

 凛太郎が嬉しそうに声を上げた。

「……ああ」

 鞘に手を添えながらやってくる有沢に凛太郎がしがみついた。

「助けにきてくれるなんて! 俺達の事なんか誰も助けないと思ってたのに! ありがとう、ありがとう有沢様ぁあ! この薄汚いウサギ野郎に犯されるところだったぁああ!」
「う、うわ!? 何だ急にっ……。――ふっ、お前らしくもないな」

 抱きついたかと思うとおんおんと泣き始める凛太郎のらしくない表情に有沢も思わず唇を綻ばせる。微笑ましいこの情景とは正反対の、こちらはストライカーがふるふると怒りに身を震わせているのが分かった。

「ててっ、て・てん、めぇええ……」

 焦げ付くようなどす黒い波動を放ちながらストライカーがゆっくりと起き上がる。ぶるぶる震えながら、何やらオーラを背負うストライカーだがその不穏な波動が陽炎の如く揺らめいている。

「き、傷が一生残ってなぁあ……お、およっ、お嫁に行けなくなったらど、ど、どないしてくれるんやぁあ……うう、うっう」

 その声は泣いているみたいであったが、彼そのものは殺意の波動に飲み込まれようとしているようだ。その見てくれはウサギのマスク云々を抜きにして完全にやばい人である。

「一生面倒見れんのかっ、お前によォオオ〜〜! 責任取りやがれチッキショオオォオオオぉおおッ!」

 泣き叫びながらストライカーが野球のバッターよろしく大きく振り被ってきた。途端バチバチと電光の走り抜ける音がした。

 有沢が難なくそれをかわすと、鞘からその刀身を抜いてみせる。引き抜かれたその刃にも怯むことはなく、ストライカーもまたくるりとその身を翻した。

「きたっ・汚らしいアホが〜〜〜〜! うえええええんっ!」
「な、何だコイツ……」

 さすがの有沢も調子を狂わされそうになるのだが、ここでペースに乗ってはいけない。落ち着いて、次に来るのであろうもう一撃を予想し刀を構える。

「ぎゃわあああああ!」
「――今度は何だッ!」

 いざ体勢を整えようとしたその瞬間に、次はまた別の方角からの悲鳴だ。見ればその少年、ミツヒロに追い詰められている創介の姿を視界の端に捉えた。

「お前、駄目駄目だな。俺より恵まれた体格してるくせによー」

 弱っちいの、とつけくわえてミツヒロがぺっと傍らに唾を吐き捨てた。

「なっ、な……お、俺だって……げほっ、オエェ」
「どうせいつもはあのオカッパ頭に守られてんだろ」
「えうっ!?」

 それを指摘されるともうどうしようもないのだった。創介は途端に言葉に詰まったようにくぐもった声を洩らした。図星か、というような表情でミツヒロが肩を竦めた。


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