04-2.ビリビリするらしいです
ぐったりとしたままのナンシーを抱えて、有沢は彼女を一先ず隅の方へと寝かせてやった。華奢な彼女は実に軽く、運ぶ事に何の支障もなかった。
「あああぁあ、お、っあっ、あ゛ー!」
途端、背後からの鳥類でも思わせるようなけたたましい悲鳴で有沢は振り返った。見れば頭部を踏みつけられ、何やら棒のようなものを押し当てられている凛太郎が視界に飛び込んできた。
その傍らではうっとりとした顔でヨダレを垂らしている一真が腰でも抜かしたみたいに天井を仰いでいて、第三者が見ればどういう状況なのか一から説明が必要そうな場面だが……。
「うひっ……、うひ、ウヒヒヒヒッ! いいぞー! いい反応だねェええ〜、君君ぃいっ! ひっじょーーーに僕、いや、俺好みのいーい声と顔だよ! そぉれもっといってみよっかー!? はい、僕ちゃんのいい顔が見ってみたい! あ、それ見ってみたい♪」
「あああ……っ、あ、くそっ、くそっ、くそ! ぶ、ぶ、ぶっ殺……」
そういう反応が益々ストライカーを昂らせているとは知らずに凛太郎が更に噛みつこうとする。ストライカーは益々ぞくぞくとするその興奮に身を任せてロメロ・スペシャルを握り締めた。もはや息も絶え絶えの凛太郎に更なる苦痛を与えて弄ぼうというのだろう。
ウサギのマスクに刻まれたその愛らしい笑顔が、凛太郎の目には恐ろしいほどに残虐なものに見えた。同時に、スタンガンを構える自分の姿とオーバー・ラップした。
――殺れ! 殺れ!! 殺れッ!!
いつしか彼の姿はあの時のあの場所、薄暗い地下で行われていた世にも劣悪な残虐ショーへと巻き戻っていた。
泣いているような笑っているような、そんな顔をしたやせ細った子どもが――一真か凛太郎か――スタンガンを構えてこちらをじっと見つめている。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
謝ったって、大人たちは許してくれない。それどころかもっと手ひどく痛めつけ、どうしてやらないんだ! と自分達を怒鳴りつける。
殴られ、蹴られ、僕たちはめいっぱい血反吐を吐いた。真っ赤なおしっこも、大量に出た。全身の骨が痛んで眠れない日なんてそう珍しくもない。
「……ごめんなさい」
そう呟いたのは倒れている自分の方だったか、それとも真上でそれを振り降ろそうとするかつての自分の幻だったのか――瞬間、さく、っと小気味良い音がした。いつまで経っても降ってはこないその電撃に凛太郎がおずおずと目を見開いた。
「〜〜〜〜っ、つおおぉお〜っ……」
見れば、ストライカーが片手首を押さえてぶるぶると震えながら蹲っている。