6-1.999999
先程の警備員が握りしめていた鍵の束を使って一同が封鎖された扉を開ける。モールの中はやはり不気味なほどの静寂が漂っていた。
双子はライフルを降ろす事無く、依然警戒姿勢を保ち続けていた。
「血の匂いがプンプンするね」
雛木が辺りをきょろきょろしながら言った。その嗅覚は人間のそれを遙かに凌いでいるとは聞いていたが――勿論、こちらにはさっぱり分からない。とりあえず警戒はしたままで、移動して行く。
「見ろよこれ、結構高いブランドなんだけどさ。色々と持ち去られてるな」
創介が割られたショーケースの中を指しながら言った。
「こんな状況になってまで物なんか欲しいと思うかねェ? 果たして。俺が言うのも何だが、被害が広がったら金なんかどんどん役に立たなくなるぞ。多分」
言いながら創介は千切れたネックレスを拾い上げた。
ふと隣で一真が何やらスマホを横にして眺めている。電波の状況が先程までと比べて良くなったからなのか、何か動画を眺めているみたかった。
『こちらは××一丁目……、避難所がゾンビ達の襲撃を受けて……必死に逃げて来たの。ねえ、お願い。この動画を見てる人がいたら助けに来て、一丁目の廃ビルよ――元々ラウンジかバーだったみたいな……お願い、また奴らが』
ひどくノイズ混じりのその動画はそこでぶつっと切れた。彼女がどうなったのかは、分からない……それで一真はまた別の動画を見始めた。
「ネット上に、色んな動画がたーくさんアップされてる」
『見ろ、これが極限状態に追い込まれた人間の実態だ――人間同士で略奪、しまいには殺し合いだぞ? 信じられるか!? おいっ!?』
ひどくブレたその画面は、近くに寄らなくては何が起きているのかよく分からない。まあじっくり見たいとも思わない映像である事には変わりがないみたいだ。泣き叫ぶ女の人の声が耳に痛い――。
「まだあるよ。ほら、こんなにたーくさん」
「もういい。やめろよ、一真」
意外な事にそれを制したのは凛太郎だった。皆勿論意外そうに目を見開いたが一番、驚いているのは一真みたいだった。鳩が豆鉄砲でも食らったみたいな顔をして、そのスマホを伏せさせた凛太郎の方をじっと見つめた。
「……今はいいだろ。べつに」
ややあってから凛太郎がやっとの事のように答えた。やはり一真は面食らったような顔のまんま、凛太郎のその行動がまるで理解できないといった風に見つめ返した。
傍から見るばかりでは、この二人の関係……というかこの二人の間にある、微妙なその距離間というものが分からない。兄弟は兄弟でも、何かの違和感を覚えるのだ。この二人を見ていると。
「まあ、今はそんな事どうだっていいじゃない。とにかく安全な部屋を探そう」
さすがは最年長だ、リーダーを自負しているだけあって淀みそうなその空気を変えるのは早い。ミミューが二人の肩に手を添えながらにこやかに言った。
それが合図になったように、停止していた二人が歩きだした。