中盤戦


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05-2.血まみれ花嫁



 花嫁のゾンビとはこれまた何と言うか……、驚いている間もなくそのゾンビは次なる攻撃をしかけてきた。何と拳銃所持である。花嫁が、それも日本の花嫁が、何故に銃なんかを持っている。突っ込みを許さずに花嫁はそのオートマチック式の拳銃をかちゃっと構えた。

 しかも中々堂に入った構えで、ゲラゲラ笑いながらウェディングドレスのゾンビは一発撃った。パンッ、と乾いた銃声がしてどこかに着弾する。片手撃ちのその反動にふらついたらしく、花嫁は少しよろめきつつ拳銃を見つめた。

 それにビビリの入った創介がずっこけて尻餅を突きつつ頭を隠した。

 その銃口から立ち昇る白い煙がおかしかったのか、しばらくそれを見つめてからまたゲタゲタと狂人のように笑った……。

「うおおいっ!? 何じゃありゃ!」
「だっさ! イケメンだっっっっさ!!」

 凛太郎がそんな創介を何だかドン引きするような顔で見つめてくるので、創介は益々ちょっと惨めな気分に叩き落された。すいとその横を一真が追い越した。一真は既にライフルを構えており、スコープを覗きこみながら手慣れたように照準を合わせている。

「おい一真、この距離だぞ」
「……。何事もね、柔軟は必要なんだって」

 ゾンビはゲラゲラと笑いながらまた拳銃を構えた。先の一発で、もう使い方は覚えた、とでも言いたげであった。今度は外さないと言わんばかりに花嫁ゾンビは一真に向かって銃口を合わせた。

「ば、バカずま! 逃げ……ッ」
「そうだね。相手と喧嘩する時だって高い蹴りを繰り出せた方が有利だしそれには、身体の柔らかさが必要。頭のいい人だって結局、脳が柔らかいから豊かな発想力を持っているんだ」

 一真は何かぶつくさと理屈臭い事を並べながら、ライフルのグリップに指をかける。花嫁ゾンビも同じで、その引き金に指をかけている。

 だが、一真の腕の方が『正確』であった。チュン、と風を切り裂くような音がしたかと思うと花嫁の真っ白なドレスに血の染みがじわじわと広がって行くのが見えた。

「……ほらね、僕の勝ちだ」

 ライフルを降ろしながら一真が子どもみたいに無邪気らしく笑った。その頬に笑窪を刻ませながら、一真はにこにことしている。

「死後硬直の始まった硬い連中になんか、僕は負けっこないんだよ。ね、凛太郎! 柔軟さは、勝利への鍵だってナオお兄ちゃんもしょっちゅう口にしてたよね」
「あ、ああ……そう、だな? うん」

 いつもはどちらかというと凛太郎の方が勝っている感じなのだが今は何故か立場が逆転しているように見えた。創介がふと視線を戻して気がついた、噴水のヤツだ――創介が叫ぶ。

「セラ、有沢! 気をつけろ、噴水のソイツがゾンビ化してる!」

 創介の叫びに二人がはっと振り返った。水浸しのゾンビがざばぁっと起き上がった。服装を見るにここの警備員だったのだろう、制服姿の中年ゾンビは首の骨が折れている。

「ゲゲ、ゴ……鍵……鍵ぃ〜」

 蘇って間もないせいなのかどこかおぼつかない感じでゾンビは言った。いや、ゾンビというのはみんなこんなもんか……ばしゃばしゃと水飛沫を上げながら警備員は腰の警棒に手を伸ばした。

 抜き出すと、それを勢いよく一振りする――すると銀色の警棒がシュっと伸びた。セラが拳を下段に降ろしつつふっと軽く息を吐いた。腰を下ろして構えた。

「……ここは俺が」

 腰辺りに構えた刀の鞘を手に、後ろ足に重心をとりながら有沢が呟いた。刀、というのは……セラの扱う武術とは違って、一撃で相手を殺すための術だ。セラが一瞬構えを解いたその間にも、有沢は抜刀し、そして一歩踏み締めた。

「……っ」

 セラが驚いて目を見張ったその矢先、撫でるようにしながら有沢の構えた刀がゾンビの前肢を切り落とした。更に納刀の動作でもう一度切りつけると、鮮やかな赤を散らしながらゾンビは崩れた。

 その血と同じくして赤い、その布がはためいた。収めた刀を降ろしながら有沢がすっと立ち上がる。

「だ、大丈夫……か」

 その台詞は何だかおかしい気もしたが、まあとにかく。セラが呟くと有沢は小さく頷いて見せた。再びモール内に静けさが戻るのと同時に、垂れ流しの店内BGMが鳴り響いている。虚しく、『雨に唄えば』のメロディが流れていた。

――果たして今日は雨だっただろうか?

 真っ白なデパートの床にじんわりと血の染みが広がって行く。


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