中盤戦


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25-3.優しい悲劇



 外は危惧していた通りのどしゃ降りだった。バケツをひっくり返したかのような降りっぷりに、途中から消火活動は必要なくなったほどだ。もっと早く降ってくれたらどんなに良かった事であろうか。

 なりふり構わずに、ミミューはその中を駆け抜けて行った。途中、数台のパトカーやバンが入ってくるのが見えてミミューは大慌てで視線を掻い潜りながら逃亡して行く……。

「今――」
「ん?」
「今、そっちに走って行った奴……」
「お、おい。ガイ、どこ行くんだよ先に現場に……」
「すまん。後から行く」

 ガイはシートベルトを外して、柏木が止めるのも聞かずにさっさと車を降りてしまうのだった。雷雨と豪雨の中、ガイは傘もささずに飛び出して行く。今しがた黒いその影が消えた細い路地に向かって駆けて行くと、さっとその行く手を阻む存在があった。

「……だめだよ」

 少女が二人、道を塞ぐようにして立っている。それどころか他の子ども達まで。恐らく、先程の火事から無事に逃げ出した施設の子達なのだろう。

「お兄さん、警察官? どうして追いかけるの? おまわりさんは、悪い人を追いかけるんでしょ?」

 真っ直ぐ自分を見つめる視線に捉えられ、思わず言い淀みそうになってしまう。

「それは……、さっきのお兄さんに色々と聞きたい事があるんだ」

 ガイが少女に告げるが、少女達は勿論許す気配は無い。

「じゃあ、あのお兄さんを捕まえるの? そんなの駄目だもん。あのお兄さんは、らむ達を助けてくれたんだから」
「『助けて』……?」

 驚いてガイが聞き返すと、少女達は強く頷いた。ガイはしゃがみこんで、少女達に尋ね返した。

「それは――君達を火事の中から、救出してくれたって事なのかい……?」

 どこか自分の耳を信じない、といった風なガイの問いかけにも少女達は揺らぐ事が無いその視線を向けたままだ。

「そうよ。あのお兄さんは、ヒーローなの」

 それで何故かガイは……打ちひしがれたような、何か――言葉そのものを失ったような感じで少女の顔を見上げた。

 精いっぱいに笑顔のようなものを、取り繕いながらガイは声を喉の奥から絞り出した。

「――大丈夫。捕まえたりなんか、しないよ」
「本当に?」
「ああ。でも……確かめなくちゃいけない事があるんだ。すまない、ここを通してくれるかな」

 半ば懇願めいた調子でガイが言うと、少女達は再確認してくる。

「本当に捕まえない? 絶対に? 神様に誓っても? 命、賭けられる?」
「勿論だ。天地神明に誓って、嘘はつかないよ」

 少女達はまだ完全に納得してはいないようだったが……この雨の中という状況も手伝ってか、やがて根負けしたようにその道を開けた。

「……ありがとう」

 ガイがもう一度、今度はしっかりと笑って少女二人の頭に手を乗せた。すぐさま前を向き直って、もう目を開けているのも辛い程のこの撃たれるような雨の中を走り出すのだった。




切ないよねえ。
アンジャッシュのすれ違いコントみたいな
二人組だと思うわ。
愛しさと切なさと糸井重里



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