03-1.おかしな肉屋
「ぼく、詳しく教えてくれないかな? 君を助けてくれたヒーローって、どんな感じだったのかな」
「背の大きなお兄さんだった! 僕のママたちが悪い事したから、ごめんなさいしなくちゃいけないんだって」
毛布に包まりながら少年は無邪気にそう答えた。
「えっと……そのお兄さんの服装とかは?」
「わかんない!」
少年はあっけらかんとしながらそう答えて、与えられた菓子パンを美味しそうに頬張った。
「んーと……、じゃあこの写真みたいな姿だったかな?」
そう言って別の警部補が少年に向かって優しく問い掛けた。彼の差し出した写真には、例のヒーロー……そう、ミミューの姿が映し出されている。そのどれもが後ろ姿だとか、ぼんやりとしたものばかりでハッキリと正面からとらえられたものが無いのだが。
少年はうーん、と首を捻って言った。
「わかんない……」
「そ、そっかァ〜。うーん」
無邪気にそう返されて、はあ、となすすべなく警部補が肩を落とした。
「少し、休憩にしましょうか。差し入れあるんですよ。近頃美味いって評判の肉まん」
まだ若そうなその警察官に言われて、顔をしかめるのだった。
「差し入れだぁ? 街がこんな状況でか……よく手に入ったな」
呆れているとも、素直に感心しているとも取れるようなその口ぶりで、差し出された肉まんの包みを見つめた。ビニール袋をガサゴソ言わせながらその中身を覗きこんだ。
「それがですねー、不思議な肉屋で。食糧が手に入りにくいこの状況下でもちゃーーんと営業してるんだから、おまけに美味い! 早い!……とまあそんな感じで、このゾンビが溢れ返った状況下でもメッチャ人並んでるんですよ。というか家に引きこもってる今がチャンス! と言わんばかりに。僕もね、一度食べたんですけどこれが、もう、ンまァア〜〜い!!」
身振り手振りを交えてそう心の底から叫ぶ姿を見るに、その美味さと言えば相当なものなのだろう。しかしゾンビ達がはびこる街中に繰り出してまで買いたいという神経はよく理解できない、人間の欲望とはさも恐ろしいものだ。
「まあ、美味いと言うなら……試しに」
言いながら一口齧ってみると、いやはやこれがまた実に美味かった。確かにこの味は、今まで口にした事がない。コンビニの肉まんなんかも十分に上手いのだが、それとはまた違った美味さ。その味はもはや肉まんの向こう側へ達している。口いっぱいに広がるジューシーさ、甘すぎずくどすぎずの程良い味付け具合、噛めば噛むほど深まる味わい……おや、この歯ざわりは軟骨か何かか? コリコリ、と少し硬いものがある。
「ほう、確かにこりゃ……」
「ね、美味いでしょ?」
思わず眉間に皺を寄せ、鉄人のようにうなってしまった。自称、食通の自分でも納得する味だ。少しだけ負けたような気になったが確かにこれは美味だ、認めざるを得ない。
「ガイも一つどう?」
「あ、ああ……。じゃあ、もらおうかな」
少しばかり離れてその様子を見守っていたガイであったが、おずおずとその袋から温かい肉まんを受け取った。
「……うぉっ! 何だ、こりゃ〜うまい! クセになる美味さだなあ」
「ああ。そこまでして執着する気持ちも分かるな」
「だろう? 坊や。君も食べないかい?」
差し出された肉まんの袋を少年はちらと眺めたが、少しあってから首を横に振った。
「パン食べてるからいらない」
なるほどそりゃそうだ――結局、その肉まんとやらが美味しすぎてそこから先の捜査が全く進まなくなってしまったのは言うまでもない。
肉まんの中身があやしい(小学生並みの感想)