中盤戦


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02-1.追憶、そして償い



 この家に訪れるのも久しぶりだった。

 どういう顔をして足を踏み入れればいいのか、正直なところよく分からない。――一旦、呼吸を置いてから……透子はフッ、とその息を吐きだした。

 それから手を伸ばして一つばかりチャイムを押すが、返事は無かった。

「……?」

 おかしい。家の電気はついているのに。

 何となく嫌な予感を覚えて、透子は扉に手をかけた……実にすんなりと、その扉が開いたので胸騒ぎは更に重くのしかかった。透子は慌てて駆け込むと、靴だけを脱ぎ捨てて家の中へと上がり込んで行った。

「おばさん!?」

 リビングの電気は点きっぱなしになっていて、その中央には――ユウの母親がいた。蹲って、静かに顔を伏せている。

「どうしたの、一体……」
「透子ちゃん?」

 実に力無く、彼女は顔を持ち上げた。まず反応が返ってきた事に、透子は胸の内で安堵する。 

「すみません、チャイム……押したんですけど……中から返事が無くて、それで、勝手に……」

 おずおずと、しどろもどろになりながらも透子が告げると母親は泣き伏せた顔のまま頷いた。

「――すみません」

 もう一度、透子は謝罪の言葉を洩らした。

「透子ちゃん」
「え?」

 母親が泣き伏せていたその顔を持ち上げると、震える手で透子の手をなんとか握り締めた。

「……ユウは」

 透子が無言で頷いて、その言葉の続きを待った。

「ユウはきっと、生きてる」

 涙声でそう呟く母親の言葉に、透子は顔がこわばるのを感じた。

「え……?」

 ややあってから、透子が目を丸くさせながら聞き返した。握りしめていた透子の手が、ぎゅっと幾分か強く握りしめられる。

「毎晩、夢で見るの」
「……ゆめ……?」

 そう、と母親は至って真剣な表情のまま頷いた。

「あの子――ううん、『あの子達』、きっと今もあんなに寒い海の中にいるんだわ。かわいそうに……かわいそうに」
「おばさん……あの、夢って、どういう事?」

 悲しそうに視線を落とす母親を揺さぶりながら透子が詰め寄った。

「あの子の夢を見るのよ……昨日は、ここで」

 そこで言葉を切ってから、母親は横手に置かれたテーブルを指差した。

「ここで、みんなでご飯を食べている夢を見たの。――楽しい夢だったわ」

 力無く笑い、母親はその時の夢を思い返すかのように遠い目をした――するとまた、一つだけ微笑を浮かべた。

「ユウはね……ふふ、私が結構、歳がいってからようやく出来た子だったの。それで余計に可愛がっていたのもあったのよね。多分、相当甘やかしたんじゃないかなぁ」
「……」
「それで結構子どもっぽいところ、あったでしょ? 融通が利かなかったり、変に頑固だったり、甘ったれだったりして」

 透子は、そんな彼の姿を少しばかり思い浮かべた。 ふっと、脱力したように笑った――「そうだったかもしれませんね」。

「けど、私はそんなユウがとても好きだったんです。……それはたぶん、恋とかそんなのではなくて――只純粋に好きだったんです、人として、彼の事が」

 それがふさわしい言葉だったのか……よくは分からなかったけど。透子は、彼の姿を思い浮かべながらそう言った。考えて口にしたというよりは、自然と零れ落ちた言葉だった――ああ、そうだったな――そんなユウの屈託の無い笑顔に迎えられたような気になった。

 透子はそっと、目を閉じた。

 かつて、ベッドの上で夢とも現実とも取れない世界を彷徨っていた時の事を思い出した。ちょっとした交通事故に遭って、透子はほんの一年間ほど意識はあるのにまったく喋る事も出来ず、そして何かを思考する事も出来なくなっていた。それまでモヤでもかかったように見えていたその世界の中で、彼はそんな自分の名を呼んで手を差し伸べて来たのだ。

 それでその手を掴み返せば、ユウはまたいつもの人懐こそうな笑顔で別れを告げて来た。それで確か――自分がいなくなっても、キミには生きていて欲しい。なんて気障ったらしい、似つかわしくはない台詞を吐いたんだ。

 もしあれが夢の出来事であったとしても、今自分がこうしていられるのは事実なわけで……――そりゃあ勿論自分の潜在意識が作りだしただけの都合のいい妄想に過ぎないのかもしれないけれど。

 透子は意を決したように唇をかみしめた。伏せていた視線を持ち上げた。

「――おばさん」

 その手を一層強く握りしめた。彼女の目に、ちらと激しい何かがかすめたのをユウの母も気付いた。

「ユウは生きてる。きっと生きてる。私が、絶対に助けてみせる」
「……透子ちゃん……?」

 強く言い、透子はもう一度決意を固める様に言った。

「私が……私が絶対にユウを探しだすから」

 一体何を根拠にしてそう言っているのか、自分で言いながら分からなかったが――只、突き動かされたみたいに彼女はそう繰り返した。

「けど。透子ちゃん、探すって一体」
「『第七地区』よ。今は封鎖されたけれど、あのおかしな宗教団体が根城にしていた場所」

 一年前、ユウはその場所でいなくなった。一体生きているのかも死んでいるのかさえも、はっきりとは分からない。けれど……。

「だからおばさん。待ってて。私――必ず、ユウを助ける」

 それから透子は、スカートのポケットに手を入れた。取り出されたのは、紙の切れはしだった。

『――団員募集中、年齢や資格いっさい問いません!』

 それは随分と胡散臭い広告だった。笑っちゃうくらい下手くそな猫の絵と、過剰なまでの募集告知。その文字を見つめながら、透子はピンク色の、今ではほとんど見なくなってしまった折りたたみ式の携帯電話を取り出した。

「透子ちゃん? 一体あなた――」
「ユウを助けるためなら、私は……」

 その目には何かを決意したような、はっきりとした強い意志が静かに燃えているようだった。




悪魔のいけにえコエーよな。
グロシーンはないんだよ。ほとんど。
まあ題材が題材だからそりゃあ
殺人シーンもあるけど全く視覚的には
グロくはないし地上波でもっと
グロイの普通に放送されてるんじゃないって
くらいの生ぬるさなんだけど。
でも怖いんだよ。
説明できないけどすげー怖いの。
ラストの唯一逃げ切った女優が
マジで発狂してるんじゃない、ってくらいに
ケタケタと笑うんだけどぞっとするわ。怖い。
びっくりシーンとか内臓ドバッとかはないので
是非見てくれ。見てくれ。怖いから。
ちなみに初代のみだ!!
それ以降のリメイクはグロ注意。



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