中盤戦


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17-1.正義への問いかけ



 午前十時、捜査会議が行われた。会議内容は例の『ヒーロー』について、併せて先の詐欺夫婦襲撃事件について、だった。

 二回目の会議だというのに早くも参加している人数がまばらになっている。見渡しても、本庁の刑事部長の姿すら見当たらない。

 仕方のないことだった、人員のほとんどが現在のゾンビ発生事件の方にかかりっきりになっているのだから……が、ガイにとって解せないのはそこではない。

 隠す事も無く平然とあくびをしている者、事件とは全く関係のない私語をくっちゃべっている者、携帯電話をいじっている者……、ガイはこれ見よがしなため息交じりに、バインダー式の手帳を取り出した。

「あー……それで今回の夫婦宅で起きた猟奇殺人事件の概要だが。あー、犯行に使われたと思われる凶器は……あーと、何か先の鋭い刃物のような……あー」
「おい、『あー』って何回言ったあのオッサン」

 ガイの前に座っているまだ若そうな捜査員ら二人がひそひそと声を潜めて笑いあった。

「しかし、今回殺されたこの夫婦とその連中だが……えーと手元の資料をご覧くださーい」

 その脱力するような声に従いつつ、一同は事前配布されたその資料に目をやる。

「ネット上にて、今回のゾンビアウトブレイクにおいて……『ゾンビ化進行を抑制する薬』と称して只のうがい薬を高額で売りさばいていたようでー」
「殺されて当然のゲス野郎だな」

 今度はまた別の箇所から声が飛んだ――ガイが思い切り睨み付けると、そいつはこそこそと平謝りをして視線を下げた。

「マー、そーゆー事なんだがな。夫婦の住んでたアパートの一室を根城にして奴らは詐欺行為を働いていたっちゅーわけだが。……ンで、この家からは他にも大麻が押収されたわな」

――死んで当然……果たして本当にそうだろうか?

 ガイは眉間に皺を寄せて、ぐっと込み上げて来る疑問を飲み込んだ。

「それで、以前から街に出没していた謎の黒ずくめのヒーローとの関連性は?」
「現在調査中だが……生き残った少年の証言を元にしてみると、件のヒーローとは少々その身なりに違いがあるようだ」

 会議室が少々ばかり、ざわついた。ホワイトボードに、捜査員がマジックで何やら書き始めた。

「少年の発言から察するにこの夫婦襲撃事件においての犯人は前回発生したナイトメア・シティ事件で暗躍していたとされる自警団の青年ではないのか? と我々は推理しているのだがね〜……」

 ホワイトボードに、その右肩上がりのミミズのような字で記されたのは『ランカスター・メリンの右手』の字。拙いながらに、何とか読むことが出来る。

 その横に張り出されたのはそれに関連する証拠として提示されていた写真達だった。

「それって……、あの宗教団体を蹴散らしたとかいう」
「そうそう。テレビ中継をジャックしてた奴らだな」

 その辺の事情は若い者達の方が詳しいのだろう、何やら盛り上がり始めたが――ガイは只じっと、手を組んで肘をついた格好のまま正面を見据えていた。随分険しい表情だったことだろう。

「けど、それなら追う必要もないな」
「何故そう思うのかね」
「だってアイツらは、いい奴なんでしょ。世界の為に戦ってくれてるんだ、今回の事件だって本来なら罰されてもおかしくはないような連中が葬られたに過ぎないし」

 へらへらと笑いながらまだ若いその捜査員は言った。

「街に現れてたその黒ずくめのヒーローだって、別に悪い事してるんじゃないんですよ。だからこの件はもう終いでいいんじゃないでしょうか」
「私も賛成です。やり方は少々酷ながら、そのお二方は共に人民の信頼を集めているのは確かなのです。……賛否両論あるのも確かですが、その行為の惨さも含めて人々の犯罪抑制に繋がるのではないかと。荒療治ではあるかもしれませんが」

――何を言ってるんだ? こいつらは……

 ガイは信じられない、といったような表情で辺りを見渡した。




ガイ君はいい意味でも悪い意味でも
若いんだよなあ。
悪いものに染まってない考え方だね。



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