中盤戦


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16-2.シリアル・キラー・ママ



 柄の部分で、思い切りトゥイードルダムの頭部を殴りつけた。恐ろしく、冷たい表情で。

「黙って言う事聞きなさいよこの醜男っっ!」

 金切り声で言い放った後、ママは唾を撒き散らしながらヒステリックに尚も叫び続けた。

「お前みたいな気味の悪い肉塊、拾ってやっただけでもありがたく思えこの豚がっ!」

 そして今度は蹴りが飛んだ。ごろん、と倒れたトゥイードルダムに向かってママは更に往復ビンタを食らわせる。

「あの日、ゴミ捨て場に捨てられてたお前をこの私が見つけてやらなかったら! お前は今頃野良犬の餌にでもなって、クソになって、病原菌を撒き散らす存在になってたって言うのに! この私への恩義を忘れて飼い主である私に噛みつくとは何て無礼な犬っころだ!」
「うっ、うっ、ウウ」
「まともに言葉も話せない貴様なんか! 私の言う事に従うしか生きる術は無いんだこのケツメド野郎っ、またゴミ箱に捨てられたいのかい!? ええ!?」
「ウッ、ウウウッ」

 ぴしゃんぴしゃんと鋭い平手を食らわせながら、ママは金属みたいにやかましい声で騒ぎたてた。ようやく落ち着いたのか、その折檻が済むと……ママはすくっとその場から立ち上がった。

「いけない、いけない……またこんな事して……パパが悲しんじゃわ」

 誰に言うともなく、ママはそんな風に呟いてからふらふらとその場から歩きだした。かと思うと、少し逸れて部屋の扉を開けた。

 薄暗いその室内に入ると、ママは電気を点けた。

「ごめんなさいパパ……、私ったらまた子ども達に暴力を」

 その部屋の扉を開けると、中からは無数の……コバエ達がぶんぶんと飛び出して来た。蹲って泣いているトゥイードルダムの事は無視して、トゥイードルディーが慌ててテーブルの上にあった殺虫スプレーを手にした。

「トゥイードルディー、スプレーを食材にかけるのは止してね」
「分かってるよママ……」

 その部屋は、悪臭が凄まじくたまったもんじゃない。トゥイードルディーは鼻を押さえたまま室内の無数の蝿に向かってスプレーを浴びせかけた。

「スプレーまた買ってこなくちゃ……ママ……」
「あら、もう無くなっちゃった? 何だか匂いもきつくなってきたわね〜、消臭剤ももっと増やさなくちゃ」

 ばたん、と扉を閉めながらママが呟いた。鬱陶しく飛び回る蝿を手で払っていながらママは続けた。

「食品業において、衛生さは一番重要なポイントよ。もし虫けらの死骸なんて入っていいようものなら店の信用は地べたにガタ落ち!」

 やがて一匹の蝿がぶうん、と繋がれた男に止まった。蝿はツツツ、と半開きになったままの男の唇の上を這うとそのままデコあたりにまで移動して行った。

 ママがぴく、っと目元をひくつかせた。

「ええい……忌々しいッ!」

 叫ぶとママは肉切り包丁を振り下ろした。どすんっ、と包丁が突き刺さるのと同時に衝撃で台が揺れる。数秒遅れて赤い血液がどろどろとママの足元に流れ落ちて来るのが見えた。

 二人の子どもは、機嫌の悪いママを見ている時が一番恐ろしくて、仕方ないのだった。


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