中盤戦


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12-4.非情の?デスマッチ



 余裕をこいて挑発ポーズを決める創介に向かい、腰の日本刀に手を置いた。……これにはさすがに創介も青くなった。そんなモン、抜かれたらたまったもんじゃない――死ぬ!

「! ちょちょちょちょっとお兄さん! そこまで! 何もそこまで!」
「――許さん……」

 ジリジリと有沢がにじり寄ってくる。当然のことながら殺気立っている。これまで以上の焦げそうな程のオーラを放ち、有沢はこちらに足を進めて来た。慌てて創介はダンボールの中から飛び出したものであろうクリスマスツリー(そういえば、もうすぐその季節だったのだ)を抱えた。

「ちょ、ちょ、タンマ! タンマァッ!」
「うおおおおおっ!」

 真剣白刃取り、という訳にはいかなかったが創介はクリスマスツリーを盾代わりにしてその一太刀目を何とか防いだ。足場が悪かったのもあってか一振りの威力は半ば失われたようで、どうやら命拾いしたらしい。

「そ、そ、そこまでやる必要無いんじゃないかなぁああ!」
「うるさい! お前が始めた戦争だ、お前がお前自身でその責任を取るが良い! これはケジメだッ!」

 創介は死に物狂いで足元に散らばるツリー用の飾りやら雪代わりの綿やらを有沢にぶつける。お互い綿まみれになりながら、何をやってるんだろう……とちょっと寂しくなったが創介はハッと我に返ったように叫んだ。

「……って、そうじゃねえよ! てめー! セラの事が好きならよ、半端な事言うんじゃなくてちゃんと最後まで貫き通せっての!」

 それで有沢が刀を持っていた手を止めた。……その手がわなわなと震え出すのに数秒とかからなかった。

「――だから言っただろう、俺にはその資格が無い」
「は??」

 有沢は唇を噛み締め、何かを堪えるような顔つきになりしばらく口をつぐんだ。創介が不思議そうにその続きを待つと、ややあってからその口を開く。

「あの瞬間、俺は思ったんだ。自分がこれまで彼……。セラの血に触れた事は無かっただろうか、とか何か感染するような行いは無かっただろうか、とか……あれこれと考えて……」
「……」
「一瞬、セラと出会った事すら後悔しそうになったんだ。あんな事を言った傍から」

 そこで有沢が自嘲ともとれる笑みを口元に浮かべた。

 有沢は肩で呼吸しながら、その振り上げていた手を降ろした。

「……笑えるだろう? 俺は何て馬鹿なんだ。惚れた相手を守るどころか、突き放すような事を考えて……そんな男にあいつを――セラを好きになるような資格なんかもう残されちゃいないんだよ」

 同じだ、と創介は無言のままで思った。まるで自分と同じじゃないか、これでは……と創介は目の前の有沢と自分とを重ねた。

 肩を落とす有沢に、創介が手を置いた。

「有沢」
「……」
「今は殴れ。好きなだけ殴り合おうぜ。そうすれば多分スッキリするから」
「――何だそれは……」
「嘘だと思うならやってみろよ。ほれ」

 創介が膝を持ち上げて有沢の鳩尾付近へと命中させた。ぐっと呻いて有沢がまたもや崩れ落ちる。有沢は鳩尾を抑えてぷるぷると背中を震わせている。

「ほーら! 悔しかったらもう一度殴ってこいよ!」
「き・さ・まァア……」

 再び始まったその交戦を眺めているのはミミュー達と……セラもであった。


 当然皆呆気にとられたようにその光景を見つめていたのだが……。

「何だ、ありゃ?」

 まずは凛太郎の第一声が上がる。その状況も去ることながら、よく見れば殴り合う二人の姿は何やらツリーにでも使うためのものであろう装飾品にまみれ、やけに煌びやかなのが尚更可笑しさを誘う……、やがて後方でそのおかしな騒ぎを見つめていた雛木が前へと躍り出て来た。

「ちょっとどいて」
「な、何だよ。やぶからぼうに」
 
 雛木は凛太郎を軽く押しやって、その綿やらベルやら、飾り星等の装飾を身体に巻き付けてボコスカとやり合う二人をよそに同じく茫然としているセラへと近づいて行く。

「おい」

 セラはよほど二人の争いに目が釘付けになっていたようで、雛木に話しかけられてようやくハっとなったようだ。驚いて顔を持ち上げる。

「お前のせいで、ああなったんだぞ」

 そんなセラの困惑を更に深めるのが、突き付けられた雛木からのこの一言である。当然のようにセラは目を丸くさせ、答えるのであった。

「……? 僕のせい? な、何故に……」

 勿論訳が分からないセラに、雛木はずいっと身を乗り出した。

「だったら直接本人達に聞いてみれば早いでしょ。とにかくアンタのせいなのっ! これは!」

 依然、組み手さながらの戦闘をまじえる二人を指差しながら雛木が言い放つ。

 セラを含め、その場にいた全員、何故二人が揉めているのかよく分からないのだが……雛木だけは女の勘(女じゃないがある意味では一番女っぽい性格をしている、と言えるのはこいつだろう)、いや野生の勘か……それが働いて察知がいったらしい。

「――だからさ。行けよ」

 少し声のトーンを落としつつ、雛木が言った。ちょっとだけ寂しそうな目をしたのは、気のせいだったか。

 セラはいぶかしみながらも、言われた通りに揉み合う二人の前へと向かった。

「な、なぁ……」

 こわごわと呼びかけるセラの声には応じず、男二人は尚も殴り合ったままだった。ちなみに今は創介が有沢の上に馬乗りになった状態である……。



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