中盤戦


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12-2.非情の?デスマッチ



 有沢が壁に手をつきながらゆっくり立ち上がるとそんな創介を見下ろしたまま呟いた。

「……、俺には――俺にはもうそんな資格なんか無い」

 言いながら有沢は蹲る創介へと近づいた。

「あんな事を言いながら俺はあの時……」

 喋りながら彼の前に腰を降ろしたはいいが有沢を迎えたのは、創介からの反撃であった。

「うおおおお、この野郎っ!」
「いっ……」

 いきなりのように飛びあがってきた創介の猛攻を、有沢はすかさずかわして見せた。すんなりとかわされて、創介は有沢の向こう側に見える景色に顔面スライディングした。

「は、話を……」
「るっせー! 知ったことか、このうんこ野郎がぁ!」

 創介は今しがた顔をぶつけた事などは構いなしに、手を突いて立ち上がると再び向かってきた。

「セラの、……セラの気持ちを考えろよボケエェエエ!」
「お、お前に言われたくない……っ」

 殴られるかと思ったのだが、予想と反して創介は有沢の腰目がけて突っ込んできたらしかった。顔に来る筈だと踏んでいた衝撃が下半身へとのしかかってきた。タックルからの投げ技にでも持ちこもうと言うのだろう、プロレスなんかでよく見られる技の一つだ。

 おまけにその姿勢から創介は有沢の脇腹めがけ、『くすぐり』を連発してきたのだった。

「こしょこしょこしょ〜……オラァッ、くすぐってーだろ笑えこのやろうっ」
「や、やめ……やめろへ、うはっ、いひひ」

 一応シリアスな場面だろうに、よもやこんな技を使ってくるだなんて反則そして予想の斜め上もいいところであろう。しばらくはその手にまんまとかかって腰砕けになりかけていた有沢だったがコレはいかん、と持ち直したのであった。 

「――っ……貴様は人の話も聞けないのか!」

 有沢は己の腰にしがみついている創介の背面に乗りかかるようにして逆に掴みかかった。がぶりの姿勢に持ち込んだかと思うと、有沢はそのまま創介を逆さまにして抱えあげた。

「おわ・ぉあっ」

 視界が逆転し、驚愕の声を上げた矢先に今度は背面から叩き落された。……見事なブレーンバスターが決まり、創介は大の字になり天井を仰ぐ事となった。

 有沢が肩で息を突きながら、乱れた着衣と髪をさっと直す。

「……、多少の怪我はあるかもしれないが大したダメージではないだろう。すぐに起きれるようになる」

 有沢がそこから立ち去ろうとするが、創介はまだくたばっちゃいないらしい。揺らぐ視界に襲われながらもしつこく起き上がろうとする。

「お……俺はまだイってねーぞ、オラ〜……」

 意識は、まだちゃんとあるらしい。有沢は素直に驚いているようだった。少しばかり肩をすくめたものの、すぐにまた冷静さを取り繕い言った。

「――。ほお、まだやれるか」
「ったりめーだ! こんなの屁でもねーし、なッ! カメハメ波食らわすぞこの野郎〜!」

 何とも無いとでも言いたげに、創介はぴょんっと勢いを付けてその場から立ちあがった。

「……しぶといな……」
「はっはっは、それが取り柄なもんでねぇ!」

 威張るように言うと、創介はまた走りだした。

 とにかくまあ、我武者羅に突っ込んでくるばかりの戦法だ。有沢には、その視界は見えなくても彼が次にどんな行動を取ろうと言うのか察知する事が容易に出来た。

「っ!?」

 が、次は何だかビニールの袋みたいなものを被せられた。

 恐らくその辺に散らばっていたゴミ袋か、何か商品を入れてあった袋でも被せられたのだろうがこれは予想だにしておらず、有沢は少しばかり焦ってしまった。

 脱ぎ捨てようとするが、その上からヘッドロックを仕掛けられた。頭部を両腕でしっかりとホールドされて、有沢は短く呻いた。

「そっちがプロレス技使ってくるっつうんなら俺だってやっちまうからな! こんにゃろうっ」

 そのまま頭部を抱えたまま、後方に倒れ込もうと言うのだろうが有沢に抵抗されてままならない。くんずほぐれつを繰り返したのち、二人はそのまま重なり合ったダンボールの山へと突っ込んだ。

 二人の上にダンボールと、その中身がどさどさと落ちて来る……。降り注いできた雪崩から、二人はほぼ同時に生還したようである。およそ一分もしないうちに二人は荷物の山を掻きわけて飛び出して来た。

「はっ……はぁ、し、死ぬかと思った」

 創介がハイハイでもするみたいにしながらまずはそこを飛び出した。続いて有沢が、激しく咳き込みながらもそこから脱出して見せる。



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