中盤戦


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11-4.わが罪あやまち、限りもなけれど



 それでごく自然と、残る双子へと視線が注がれる。

「――お、俺はぁ……」
「僕はみんなと一緒がいいよ。だからついていく。だって、ここでみんなと離れたってどうしようもないもの」

 口籠る凛太郎とはまるで正反対の一真だった。

「一真、お前もちょっと楽観視しすぎ……っ」
「凛太郎は来ないの? それだと僕、寂しいな」
「いやいや! 一真さぁ、お前の事は馬鹿だとは思ってたけどまさかそこまでなのか? というか話聞いてたか? ゾンビになっちまうかもしれねーんだぞ下手したら」
「怖いの? 今までなってないんだもん、平気だよ。それに今引き返したところで、結局大勢のゾンビに襲われて噛まれたら結局は一緒の事だよ。それなら強い人たちと一緒にいて少しでも生存率上げた方が賢いでしょ?」

 一真は笑顔すら浮かべてそう話した。どちらかというとビジネスライクとも取れる使命的な気持ちでセラを保護しようと主張するミミューと違って、こちらは本当に緊張感が無い……というか半ば楽しんでいるようにも見えた。

「〜〜〜っ……」

 一真はすたすたとミミューの傍まで歩いて行くと自分はこっちへ従うという具合に凛太郎の方へと改めて視線を向けた。

「どうするの、凛太郎?」
「お、おめーは家族までも切り捨てるって言うのか……」
「あれ? 凛太郎、いつだったか僕の事なんか家族じゃないって言ってた事あったよね」

 いつも見ている二人の立場とは、どこか逆転しているようにも見えるそのやり取りにミミューが苦笑を浮かべる。

 凛太郎は崩れ落ち、手を突いて絶望感いっぱいのポージングのまま震えている。

「……っくそぉ……ちっくしょ〜……確かによぉ、ここで戦力が分散したところで俺達に出来ることなんか限られてるし……行く場所が無いことだって知ってるよ……」
「行く場所ならあるよ。ナオお兄ちゃんたちの住んでた家に行けばいい」
「うるせー! 人が喋ってる時に口挟むな!……くっそ、くっそ、クソクソクソクソ! クソったれ! あぁあああ゛……、分かったよ! どうせ同じゾンビになる結末っつーんなら少しでも希望のある道につくよ! 馬鹿野郎!」

 怒鳴り散らしながら凛太郎が立ち上がると、ミミューの傍までやってきた。

「ありがとう、二人とも」
「礼なんぞ言われる覚えはねーぞ! 俺は別に正義感だので動いてる訳じゃあねえからな! そこんとこ勘違いのねーようにヨロシク!」

 凛太郎がぷいっと顔を逸らすが、ミミューは優しく微笑むだけであった。

「さて、あとは」

 残る二人と……あとはセラ本人の気持ち次第、と言ったところだろうか。ミミューはため息を吐きながら今後の課題について、考えてみる事にする。

12-1.非常の?デスマッチ


 月の綺麗な夜だった。

 本当に、こんな事でも無ければ最高の夜だろうに。と、ちょっとばかり詩的めいた事も考えてはみるもののすぐに普段から自分に空を見るような習慣が無い事にふと気がついた。

――じゃあ、つまりこんな事態にでもならなきゃマトモに空も見なかったって事かな……

 何だか皮肉なカンジだった、ゾンビによるアウトブレイクが発生した初めての日に逃げ惑いながらセラと一緒に夜空を見上げた事を思い出した。

 あの日は月が真っ赤になっていて、ひどく不気味に思えたがセラは何て事無い、単なる自然現象なのだから怯える事はないと言ってのけたのだった。

 創介はそんな事を思い出して、一人で笑った。

「セラ……」

 セラに謝りたかった。だったら行けばいいのに、とどこか冷静に指摘する自分もいるのだが今一つ奮起しきれない臆病な自分もいて――創介はうじうじと悩む自分をどうにかしてしまいたいとすら思い始めていた。

 こんな時に、自分をいなしてくれるのは大体セラだった。そのセラがこの場にいないだけで、こんなにも違うなんて。

「……有沢」

 壁にもたれながらああでもないこうでもないと髪を掻き毟っていると、別の部屋から出て来た有沢が見えた。創介の声に有沢は気付いたらしい。顔を少しだけ上げるが、またすぐに無視して別の部屋へと行こうとした。

「おい、シカトぶっこくなよ……」

 ほっとけばいいのに何故か気が立っていて、創介は有沢に食ってかかってしまった。

 有沢の手首を掴むとこちらへ無理やり振り向かせた。

「……お前、言ったよな。あいつに。守りたいって」

 創介が続けざま言うと、有沢は少し頷きつつ答える。

「ああ」
「だったら――、だったら。セラの傍にいるんだろ? そうだよな?」

 ややあってから、有沢は何かを考え込んでいるようだった。やがてそれが行きついた答えが何であったのか分からないが……創介の腕を乱暴に振りほどいた。

「放っておいてくれるか、俺の事は」 

――何だって?

 創介は思わず口元がひくっと痙攣するのを覚えた。

「何で……お前、言ってた事違うじゃんそれだと」

 言いながら創介は無性に腹が立ってくるのを覚えて仕方なかった。有沢の胸倉を掴むと創介はその込み上げて来る怒りに身を任せて、思い切り彼の頬を一発ぶん殴った。バコッ、と鈍い音がして有沢が尻餅をその場に突いた。

「ふざけんなよっ、守るっつったんならちゃんと最後まで守り通せよ!」
「……」
「黙ってねーで何とか言えこのッ」

 次なる拳が飛ぶ直前に、それまで俯いたままだった有沢が反撃に出た。座ったまま、片脚をすいと持ち上げて飛び込んで来ようとする創介の腹めがけて一発蹴りを食らわせて来たのだ。

「うびっ」

 意味不明な悲鳴を上げて創介がその場に蹲った。


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