10-1.パンデミック・フルー
セラは一人、部屋でぼんやりと考え事をしていた。本当なら自分が寝る番なのだが、寝付けなかった。
これからの事、これまでの事――彼の中にある課題はそれこそ山積みだった。そしてそれらを自分に解決することが出来るのか……を考えていると、急速に神経が弛緩してゆくのを覚えた。
俯いていると、何だか急激に目頭がじんわりと熱くなった――セラはごしごしとその両目を、半ば乱暴に拭う。
――なんで急に涙なんか……
不思議で仕方無かったが、それだけ色々と消耗していたものがあったのだろうか。どこかで聞きかじったような知識だが、涙を流す事で人は無意識のうちに精神を安定させるのだと。だから泣く事は我慢しない方がいい、とか。
そんな事を考えていると背後で扉がノックされたので、セラは慌てて涙を引っ込める。
「誰だ?」
返事は無く、代わりに扉が開かれた。
「あ……」
「俺だ。少し――いいだろうか」
静かにそう言って……有沢は後ろ手に扉を閉めた。姿を確認するなりに、セラも安堵したようで笑顔をちょっとばかり浮かべて見せた。
「ああ、構わない」
すまない、と小さな声で謝罪を洩らしながら有沢はゆっくりと部屋の中へと足を進めて来た。
「どうした? 有沢も眠る番の筈だろ」
「……そうなんだが、どうしても君と……セラと話がしたかった」
言いながら有沢がセラの隣に腰掛けた。
「僕と……?」
勿論、不思議そうにセラが目を丸くする。有沢は傍らに刀を置き、長いため息を吐き出した。それからしばらく――言うべきなのか迷っている風であったが、間を置いてから有沢は言った。
「――セラは……、あいつの事が好きなのか」
「は?」
すぐさま聞き返した。セラが更に目をまん丸くさせて、有沢を見た。
――なに? なんだって?
彼が何を言っているのか、よく分からなかった。
「い、いやいや。アイツって?」
「創介だよ」
またしても間髪いれずに、今度は有沢が聞いてくる。セラは勿論答えに詰まる、そんな事――答えられるわけもない。
「す、好きって。なにが?」
ほとんど無意識のうちに、どういう返事が正解なのかも考えがつかないうちに……セラは喉から言葉を押しだした。が、有沢は至ってクールな、というかほぼ無表情で答える。
「いや……、つまらない事を聞いてすまなかった」
こちらがまだ納得のいっていないうちに、有沢は首を振った。
そこでしばらくの沈黙が訪れたものの、セラにとってはその沈黙さえも必要な時間だった。この質問を整理するのには、ひどく時間を要する。何故、有沢はそんな事を言ってくる……セラはすぐにでも尋ねてみたかった。
だけど、それを聞くとひどく後悔しそうだなという気持ちも同時にあって、何も言えなくなった。
草食と見せかけてプライベートは
野獣な有沢……
野獣先輩有沢説
・枕が大きい←寝込みを襲われないために
枕の下にいつも刀を隠している。
・「お前のことが好きだったんだよ」←言うまでもなく、
セラちゃんへの胸に秘めた思いの事
・「まずうちさぁ、屋上あんだけど……
焼いて行かない?」←雛木は火が弱点のために
屋上へ誘い込んでいる