07-2.あいにくの雨で
物を広げていたそのスペースに、ほとんど無理やりのように入り込んでくるもんだからセラはちょっと迷惑そうだ。不承不承、広げていた荷物を持って少し端へ避けてやる。
「あのさ」
「……?」
「色々、俺、セラに頼りきってた部分とかあって。それで、その〜、うん」
口籠る創介に、セラは益々訝るような視線を向けた。何が言いたいんだ、と視線で訴えられているような気になり創介は一度咳払いをしてみせる。言わないと、とにかく。
「ここまでありがとな、ちゃんと言ってなかった」
屈託なく創介が笑いつつ言うと、ややあってからセラがぷいっと顔を逸らした。
「……遅いよ」
それは別に怒っている口ぶりではなく子どもが拗ねたような口調とも取れた。とりあえず、悪意は感じられない――多分。
「あ、やっぱり? 何か、色々助けてもらったのにさ。まともに言ってないじゃんって自問自答しててさ。あはは」
「ホントだよ。世間知らずばかりか礼儀知らずなんじゃないの、って少し腹立ってた」
う、とたじろぐ創介を見てセラがちょっとだけ意地悪そうに微笑んだ――そしてそれはすぐに、セラにしては珍しく、素直な笑顔へと切り替わった。
「……嘘だよ。あ、でも腹が立ってたのはちょっと事実だけど」
「う、う〜ん」
見慣れないセラの笑顔にちょっと戸惑いつつも創介が、取り繕うように言った。
「な、なんかさ……」
「?」
「俺達、世界がこうなる前って全然親しくなかったのにね」
言いながら自分が避けてたんだという事実を思い出した。同時にセラのあの時の冷たい目も。――だがしかし、今はどうだってよかった。そんな曖昧な記憶は重要じゃない。いや、重要なのかもしれないが今はこだわるべきじゃないから。
創介は昔をアレコレと思うのを止めて、また言った。
「こんな風にならなきゃ俺とセラってずっと喋らないままで、学校へ通って、ああやって毎日繰り返してたのかねぇーって思うとちょっと不思議っす。はい」
しみじみとした様子で創介が言うと、セラがちょっとだけ肩をすくめた。
「――そもそもお前、そんなに学校自体、来てなかったじゃないか」
図星だった。創介はまたもやばつの悪そうな顔で、口籠る。可愛い顔して結構ずけずけものを言ってくれちゃう子だ。
「まっ、真面目に通うよ……これが全部済んだらさ」
「ほんとかよ。真剣にやるのははじめの二、三週間だけだったりして」
これまた、耳に痛い言葉だ。飽きっぽい性格なのは自分でも承知しているし、それをすぐさま悟られて指摘されてしまうというのは中々恥ずかしい。が、創介はそれも一つの意見だと思って受け入れる事にする。
「いや、俺は次からは逃げないよ。――父ちゃんにも叱られちゃったしね」
「え?」
「あは、何でも」
さすがに正座させられて親に説教された、なんて口が裂けても言えなかった。
「な、セラ」
セラが視線だけを上げた。
「俺、お前に迷惑ばかりかけてたし……そのー、うまく言えんが。これからは借りを返してくつもりで頑張るよ、うん。そりゃあもう必死に」
「……。そうしてくれ」
一瞬、何だかちょっとだけ寂しそうな感じにも見えたのは気のせいだったであろうか。ややあってからセラが手を止めていたその作業を再開させたようだった。
進展すればするほどに
初々しくなるそんな二人。理想です