中盤戦


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「うーん。しかし……学校で肝試しした時も思ったけど真っ暗闇ってのは無意味に怖いんだよなー。おまけに静寂。うー、怖い怖い」
「……なあ。お前、さっきからやたらによく喋るのってまさか怖いのごまかすためか?」

 ふと、凛太郎の中に浮かんだ素朴な疑問だった。その問いかけに、創介が短く呻いた。

「う、うん……まあね。それもあるよ、俺ほんと無理なんよ。怖いの」
「はっ、ダッセーの。イケメンかっこわる。まっ、ホラー映画も見れないようなヘタレだしな。ったく損してるぜー、全くよお。あんな面白ぇもんないぜ、死と恐怖は最高のエンターテインメントだぞっ!」
「うるせえなあ、見なくても死なないからいいだろ別に」
「あ、また馬鹿にしたろ? いいか、ホラー映画から学ぶ生存の鉄則ってぇのがあってな……ってうわぁああ!?」

 それは突然のように、今まで意気揚々と話していた筈の凛太郎が絶叫したのでみんな何事かと思った。

「な、何だい。いきなり!」

 先頭を歩いていたミミューが問い掛けると、凛太郎は震える指先で暗がりを指した――「あ、あれ……」。

 声をも震わせて凛太郎はぷるぷるとその闇の中を、もう一度指差した。ミミューがその先を視線で追うと、そこには小さな光がプリズムのように輝いていた。七色の光は、ヒラヒラと左右に揺れておりその場に留まったままだ。

「ひ、ひ、人魂……、ウィル・オ・ウィスプ……いやエクトプラズムか!? 次から次へとホラーな目に遭わされるぜコンチクショーッ」
「凛太郎、よく見て」

 怯えているのかそれとも興奮しているだけなのか、声を荒げる凛太郎とは正反対に落ち着いた一真の声がした。冷静に指摘されて凛太郎は目を細めながらその光をじっと見つめた。

「蝶、だね……」

 凛太郎が確認するよりも早く、ミミューの声がした。なるほど、それは蝶の標本だった――よく見ると蝶達はところどころにヒラヒラと飛んでいる。

 ミミューが手の平の上に飛んでくる、その蝶を見つめながら呟いた。

「この程度の生き物なら何ら害は無いだろうけど――こんな物体も復活するなんて。まさか、魚や剥製なんかも蘇るのか? やだなー、食べるものにも気をつけなくちゃならなくなるじゃないっ!」

 闇の中で蝶達は、優雅に、その鮮やかな残光を漂わせながら舞い続けた。暗闇の中で静かに行われるその演武はこんな時であろうと心から美しく感じられて、一同の視線を奪うのには十分であった。

「――綺麗ね……」

 ナンシーがぽつりとため息を洩らすみたいにして呟いた。まるで夢でも見ているみたいなその光景に、しばし言葉を失ってしまった。

――なんというか、ねえ……

 創介は闇夜に舞う蝶達の姿を見つめながら色んな事を思い返していた。ここまでの事だとか、それだけじゃない、世界がこうなる前の事。自分はやはりどうしようもなく子どもで、世界がこんなになってようやく気がついた事がたくさんあったのだ。

 ありきたりなんだけど、平和に過ごせた事がいかに幸福であったか、何も無いその日常がどんなに喜ばしい事だったのか、とか、色々と……何か事件が起こるたびに、どこか他人事のように構えていたけれどもう絶対にそんな事はしないと誓った――だから神様、早いとここの世界を何とかしてください、お願いします。

 無宗教な癖に、都合のいい時ばかりに呼び出される神様が全くもって可哀想だなと思った。その蝶達を流れ星とでも勘違いしていたのかもしれない、創介はその願い事は口には出さずに心の中でコッソリと祈った。

 次第に視界も慣れつつあって、初めは手探りでおろおろと移動していたのだがちゃんと歩けるようにはなってきた。それでもまあ油断できない事に変わりは無い……懐中電灯の光線を動かしていると、次に「ぎゃっ」と叫び出したのは創介本人だ。

「何だよ、うるせーな!」

 凛太郎が怒鳴ると創介があわあわとなりながら周囲を見渡した。

「だ、だってマネキン人形がたくさんあるんだもん! こえーよ! こんなにたくさんあったらさぁ!」

 そこには服を着たものからそうでないもの、果ては男から女まで。多種多様のマネキンがずらっと並べられていた。――この中を通るのはちょっと……いやかなり気が引けるのだが……。

「うわ、ほんとだ。これは確かにちょっと不気味だねえ……」

 ミミューがライトでずらあっと並んだマネキン達を照らしながら呟いた。果たして本当にそう思っているのだろうか、あまり怖がっているような口調には聞こえないが。

「でも何でこんなに? 誰かが並べたのかな……いやそれにしたらヘンか。何のために並べるんだって感じだし。業者がちょうど持ち出すところだったとか……うーん」
「あ、あ、あ、あまり深く考えない方がいいよな。うん。やだなー、ここに一晩泊まれって言われたら無理だなあ。百万積まれても無理だなあ」
「早く離れろよ、鬱陶しいなァ〜……」

 凛太郎に蔑むように言われてしまい、創介が渋々と言った具合に離れる。

 で、話を戻すがこのマネキンの山。誰かが置いたにしたって目的不明すぎて気持ち悪いし、そもそもそんな事している暇があったら逃げろという話だ。人間の仕業にせよ――いやいやそれ以外の仕業だったらもっと気持ち悪いのだが――とにかくまぁ薄気味悪い。

「そういえばこんな事件、あったよね」

 何を言い出すのかと思えばミミューがぽつりと呟いた。

「中学校の校庭にね、椅子と机が大量に並べられていた事があったんだって。深夜一時ごろに、警備員がいきなり拉致、監禁されてね。それから自力で脱出して通報したところ、持ち出された机やら椅子が運動場にずらーっと」
「何それ、意味不明だなあ」
「でしょ? でね、それを屋上から見ると数字の『9』の形をしてたんだって。犯人の目的は一切不明だとか」
「……ますます意味不明じゃん」

 創介があらためてぞっとした。でしょ、とどこか得意げに笑うミミューだったがすかさずセラが口を開いた。

「それ、犯人は只の愉快犯。実際にはその中学校の卒業生たちが、悪ふざけの思いつきでやっただけなのが真相」
「え、そ、そうなの!?」

 それを聞き、創介は驚くのと同時になーんだ、と安堵して見せた。対するミミューは少しつまらなさそうだが、彼もまた驚いているみたいだった。

「えー、セラくんってばまだ若いのに。何でそんな事知ってるんだい? 僕ら世代の事件だよ、コレ。……って言っても僕もほとんど記憶に無いんだけどね〜」

 感嘆したような声をあげてみせ、ミミューが不思議がった。一拍置いてからセラが答える。

「――僕、孤児院をほとんど脱走したみたいなもので……。何せ家がありませんでしたから、しょっちゅう図書館に通い詰めてたんです。その時に、色々読み漁っている時に偶然目にしたものですよ」
「あ、それ賢ーい。図書館ならタダだし、暑い時も寒い時も避難すればいいものな。暇も潰せるし」

 創介が感心したように言うが、彼は絶対本など読まない。絶対に。

「何だその目は」
「別に……」

 ふいっとセラがごまかすように視線を下げた。




雨に歌えばといえば
時計仕掛けのオレンジ!!!!
アレックス超萌え。
でもひどいシーンとか濡れ場がガンガンで
ちょっと見る人選ぶね。
おじいちゃんをよってたかって
暴行するシーンほんときらい



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