中盤戦


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03-2.バック・トゥ・ザ・俺



 あぁ、何て情けないんだ――こんな時になって彼の言った台詞が痛々しい程脳裏に甦ってくる……、こういう事態で頼られるのは自分だと言うのに、まったく情けないったらありゃしない。
 さっき子ども達には何と言ったか? とっても強い? からっきしじゃないか……と、自分に呆れたように嘲笑を浮かべると修一はルーシーの部屋の戸をノックした。

 彼は、眠りを妨げられるのを非常に嫌う。……ので、いくら修一を大好きな彼の事と言えど多少は怒られるのを覚悟で修一はその扉を開けた。

「ナオ、ナオ!」

 布団に包まって静かに眠っているルーシーの身体を揺さぶった。うーん、とうめき声のようなものを洩らしてルーシーは更に深く布団を被った。

「ナオ、お願いだ。起きてくれ」
「――兄さん、何なの……」

 やはり機嫌はよろしくはない。無理やり眠りの淵から起こされたルーシーは眉間に皺を寄せてこちらを睨み据えている。目をこすりながらあくびまじりにようやく上半身を持ち上げた。

 寝癖であちこち跳ねた髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き毟りながらルーシーはもう一度大きなあくびをして見せる。

「に、庭に誰かいるみたいなんだ……」
「誰かって?」

 夢うつつのとろんとした目つきと声色でルーシーが尋ね返す。早いトコ用件を伝えて動かしてやらないと、今にも再び眠り出しそうな勢いだ。

「し、知らない人だと思う」
「ふぁあー……、じゃ、泥棒かな。うちにはお金なんてもうほとんど無いのにね、全く困るなぁ〜」

 そこでルーシーがひょいとベッドから降りた。つかつかと怯える様子も無く歩いていくルーシーの後ろをおもちゃ同様のバットを構えた修一と、それに連なるように心が追いかける。

 それと、先程子ども達には部屋に戻るよう言ったのだが好奇心旺盛な彼らには無駄だったようだ。……それもそうだろう、彼らが大好きなヒーローが悪者をやっつけるその瞬間がもしかしたら目の前で見られるのかもしれないのだから。

 気付くと心だけではなく部屋に戻ったはずの二人は勿論の事、他の子ども達までもを引き連れてギャラリーを増やして戻ってきていた。

 構わずルーシーは階段を降りると、例の庭へと続く戸の前に怯む事なく立った。

「……。ああー、確かに……いるなぁ、何か変なのが」

 今も尚、こちらを覗きこもうとしているその影を確認するとルーシーはこちらを一瞥し、再び庭の不審者を見た。その真っ暗な状態で見るシルエットは某国民的探偵アニメに出てくる犯人の如くだ。真実はいつも一つ……。

「下がってて。あとは僕に任せておいていいから」

 言われた通り修一は覗きに来た子ども達を守るようにして立ったまま後ろへ下がった。子ども達は今か今かとその修一の腕から顔を覗かせている。こちらの気など知らず、みんなして目を爛々と輝かせている……。

 ルーシーが躊躇することなくその扉を開けたかと思うと、人影に掴みかかった。ソイツは武器を持っている様子もなく、別に仲間を連れている様子も無かった。

 もみくちゃになっているのか、真っ暗なその中で行われている抗争のほとんどはよく分からない。何か叫び声のようなものが二、三度ほど響き渡って、ほとんど無理やりその人影が暗いリビングへと引きずりこまれてきた事だけは分かった。

ああっ、とか、うわぁっ、とか何か聞こえてくるのでつい好奇心に負けて修一がバットを抱えたままでそっと覗き込んでみる。

 と、そこに繰り広げられていたのは侵入者とルーシーのちょっとしたアトラクションみたいな光景である。まず侵入者がルーシーに正拳ストレートの突きを食らわせようとしたがそれが届くよりも早く、ルーシーは蹴りを繰り出した。

 その蹴りが彼を前蹴りで押しのけるのかと思えばそうではなくて、脚が向かったのは飛んできた侵入者の腕だった。ガッ、と器用にひっかけて相手の腕を掴んだかと思うと見事に拘束してしまったのだ。

 侵入者の方は殴りたくて殴ったわけではなさそうにも見えたが、まあともかく……。


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