中盤戦


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02-1.ゲット・アップ・ルーシー



 リビングで修一がソファーに座りながらチャンネルを回していると、シャワーを終えた弟(と、いっても実際に血の繋がりは無いのだが)が頭にバスタオルを被ったままで戻ってきた。

「――兄さん。あのシャワーもう大分壊れてるよ」
「……? 本当かい、ナオの使い方が悪いんじゃないのか」

 悪気は全くないといった様子で修一が答えると、ナオ――もといルーシーは苦笑混じりに肩をすくめた。

「そうかな」

 言いながらルーシーは広いリビングにやってきたかと思うとその場に腰を降ろした。……風呂上りに彼が真っ先にやるのはこの柔軟であった。大体毎日の日課のようで、彼はかかさず筋トレやらストレッチやら柔軟に惜しまず時間をかける。

 とにかく身体の柔らかい彼のストレッチは、もう見ているだけでも圧巻である。中でもその見事な開脚は思わず目を見張るほどだ、垂直に開かれた両脚のまま彼は更に上半身を倒して床にべったりとつけるという特技まで持っている。さながら中国雑技団のような柔らかさには舌を巻く。

 痛くはないのか、と一度聞いたらけろっとして彼は答えた。

「ぜんぜん、平気だよ」

 ルーシーはしばらくその体勢でいようが何ともないと平然と言ってのける。苦しそうな顔一つとしないのだから末恐ろしいものさえ感じる。ルーシーがやがてよっこいしょ、と床にべったりと張り付けていた上半身を起こした。

 そして次は腹筋と腕立て、拳立て、指立て、仕上げにはスクワットと日々のメニューを淡々とこなすのだった。
  
 日々の努力の賜物であろう、ルーシーは二十代後半を超えても理想的なその体型を維持し続けている。百八十を超える身長と、無駄な脂肪の一切ついていない、実に羨ましいスタイルを保っているのだ。

 若干は身内びいきに基づいているのかもしれないが、外に出ると女の子たちの視線が注がれているのを見るたびに複雑になるのは間違いない。どっちに対して嫉妬していいものやらよく分からないが、まあとにかく……修一はそんな義理の弟を見つめると、次は『型』と言うのか――格闘技には無縁で疎い修一には分からないのだがとにかくアクション映画のような、戦闘における攻防武技を披露する。

「な、なぁナオ……。そんなに身体鍛えて一体どうしようって言うんだ。それに物騒なんだよ、その空手の型っていうのか……も、もう世界は平和なんだろ?」

 ちなみに今はゾンビ発生より、二日前である。まだ平和なその時を、ルーシー達はのほほんと過ごしていたのだった。

「どうするって、もう、兄さんったら。健康にいいんだよ? ストレッチは。あとこれは古式ムエタイの演舞だよ。地を裂く膝は骨を断ち――一寸の隙もなし!」

 と、まあ何だか技の解体と説明をしながら蹴りと肘打ち、突きの動作をしてみせる。見ていて成る程確かに「おお」とはなるものの、だがそれとこれとは別である。ルーシーはいつものその演舞を終えたあとは、必ず手を合わせて祈りを捧げるようなポーズと共に締めくくる。

 彼にとって型の稽古はアップのようなものらしく、いい感じに身体の部位に効いて来たらお次はミット打ちだ。

「す、ストレッチは分かるよ。うん。でもその、何でそう常に誰かを殴るような準備をしているのかなあと」
「……ほら、こんな世の中でしょ? 自分の身くらい自分で守れるようにならなきゃいけないしね。最近この辺りにおかしな通り魔が出るって話もあるでしょう。ほんの護身術代わりだよ、兄さんも一緒にどう?」

 軽やかに笑いながらルーシーはミットに向かって見事なスパーリングをしている。極めつけに華麗なまでの上段回し蹴りが叩きこまれる。パアンッと弾けるような鋭い音がした。今のは実際に人間相手にしていたとしたら、綺麗に相手側の顔に入っていただろう……そしてそれを食らった相手は……! いやはや想像してぞっとしてしまう。

 日頃の柔軟の成果かよくそこまで足が上がるものだ、と感心さえしながら修一はルーシーのそのトレーニングを眺めていた。

「……お、俺は遠慮しておくよ……うん……」

 おずおずと修一が答える。
 自分も習い始めるイコール、ルーシーにぶん殴られてしまう可能性が高いというわけだ。恐ろしすぎる。





牙を突き合わせる象(チャーンプラサーンンガー)!!!
マッハ!! のトニージャーが最初の方で
演舞をするシーンがあるのですがあの辺りみたいな。
トニージャーの筋肉のつきかたはマジ理想だなー
日本人ほど細すぎずに白人ほど隆々とせずに
黒人ほどいかつすぎない。
まさしく腐女子が好む二次元イケメンの
理想の体つきに近いと思うんだけどなぁ。
でもどこ行ったんだろうなあ。
あんなに運動神経グンバツな人早々いないと思うのに。
何かスキャンダルまみれの人だったらしいなあ。
しかもいつの間にか結婚してた。
これはショックですよ。とても。でもおめでとう。



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