中盤戦


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06-1.葬って後は口を噤め



「……大丈夫か?」

 セラの心配そうな声を背後に受けながら、有沢は青ざめた顔のまま何度も小刻みに頷いた。頷く、というよりはぷるぷると顎を引いているようであった。

「まさかお前が乗り物酔いするとはなぁっ! 何かおもろいんですけどー。ゲロゲロゲロ〜ってな」

 創介が茶化しながら言うと、無力な子犬のように震えている有沢に変わってセラに思いっきり睨まれた。セラは有沢の背中をさすってやりながら、ふらつく有沢の手を取り歩いている。

「――すまない、ここからは俺だけでいい」

 いつもはクールな感じのする有沢だったが、やはり吐き気には勝てないのかもう今にも限界の近そうな必死な感じが伝わってきた。ちょっとつついただけでも自主規制な惨状がお目にかかれそうである。

「でも……」
「う゛っ!!!!」

 心配そうに様子を覗うセラの手をもうほとんど無理やりに解いたかと思うと、有沢は一目散に駆け出してしまった。こちらを顧みることもなしに口を押さえたままで有沢は公衆トイレの中へと駆け込んで行ったのであった……果たして、ちゃんと辿り付けたであろうか――セラが心配そうに覗きこもうとする。

「なあ、セラ」

 そんな背中に向かって、創介が話しかける。

「何?」

 振り向いたセラの顔だったが、さっきの一件でちょっと遠い目をしていたのが気になったのだけど今はもうそんな事もなさそうであった。――まあ、それでもちょっとだけ気持ち浮かない感じがしたので……。

「いやー……何かさ、さっきからちょっとしょげてないか? お前」

 こういう事をストレートに聞けちゃうのが自分の強みだと創介は思っている。まあ、それがたまにウザイだとか言われてしまう事もあるのだが。
 一方で問われたセラはと言うと、身に覚えがないわけでもないのか一瞬ばかりきょとんとしたが、すぐに思い当たったように唇を引き結んだ。

「……元々こういう顔なだけだよ」

 セラとしてはあんまり触れて欲しくない部分だったのかもしれないな、と創介は思った。そっけなく呟いて、セラはつんと顔を逸らした――いーや、違う。と、創介はセラの言葉を信じなかった。

 絶対に何か思い詰めている事があるんだろう。でも素直じゃないというか何というか、不器用な彼の事だ。例え何かあったとしても口に出したりはしないんだろう……と、そこまで考えてみて創介は思った。

 何だかエラソーに分析しちゃってるけど、自分はセラの一体何を知っていると言うのだろう。そもそも元々仲良くなかったのに、だ。

 というか自分はセラに対していい印象を持っていなかったのが本筋な筈だった。それがどういった経緯かこうやって一緒にいる。……あれ、と何だか頭がこんがらがってくるのが分かった。

――何で俺、こんなにコイツの事気にかけてるんだ? そういえばさっきの屋敷でもそうだったし。いやいや、待て。まだ慌てるような時間じゃない。仲間だ、うん仲間。仲間の事は気にして当然だしこれから協力し合わなきゃいけないわけだからこれは至極当然な全くもってフツーなわけで……

「創介??」

 物凄く理屈臭い事を考えているせいなのか険しくなりつつある己の顔に気付かず、創介は腕を組んだ状態のままでムッツリとしていた。訝るようにセラがいよいよ問いただすと、創介はハッ! と我に返ったのであった。

「あのさ、セラ……そのー、なんちゅうか」
「ま、待たせたな……」

 覆い被さるようにして発せられた有沢の声とともに二人が視線をそちらに動かした。ふらふらと現れたのは依然、青ざめた顔のままの有沢であった。おぼつかない足取りで彼はこちらへとやってくる。

「だ、大丈夫なのか? お前」
「大丈夫、だ……」

 口ではそう言うものの、有沢は酔っ払っているみたいに千鳥足である。とてもじゃないが大丈夫そうには見えないのだが……心配そうに創介とセラが左右から話しかけるが有沢は大丈夫、大丈夫、の一点張りである。頑なに何でも無い事を主張するのだから始末におえない。

「――ねえ、早くしてくれない?」

 そうこうしているうちに、ワゴンからナンシーが気だるそうな顔を覗かせた。もう待ちくたびれた、といった様子である。

 何だかそれでフッと現実に引き戻されたような感覚がし、創介はわざとらしいくらいの笑顔と大声で返したのだった。

「……あっ、ごめんごめん、ナンシーちゃん! 今いっくねー! あっ、あとついでに電話番号交換しよーッ!」

 創介が満面のニコニコ顔で踵を返すと、さっさとナンシーの元へと走って行った。ナンシーは表情一つ変えずに遮るようにしてその扉を閉めるのだった。

「あっ……」

 そうしてそんな風に走りだした創介を、何となく縋るように見つめたのはセラだった。それはほんの一瞬だけで、言われなければ分からない程短い間の出来事であったのだが――有沢には、何となくその寂しげな声が察知できた。が、彼は何も言わぬまま気付かないふりをするのであった。





じれった〜いじれった〜い
なんなのこの子達
訂正前はセラくんもっとムスっとしてて
ツンツンしてたけど丸くなったな。
ツンデレというよりはクーデレに近くなったような?



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