中盤戦


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05-7.渡る世間はキチばかり?



 いや、ストライカーの方はその表情がどうなっているのか伺い知れないがルーシーの方は素で楽しそうにしている。

「……。何かまた危なそうなのが増えたのか……」

 やや痛んだ茶色い髪を掻き毟ってミツヒロが苦笑した。

「つーか何でこう、俺より身長でかい奴ばっか雇うんだよ……マジそればっかりは解せねえわ……」

 ストライカーと名乗るそいつの身長は多分百七十と少しくらいだろうか。ちなみにミツヒロの身長は非公開であるが高くはない。むしろ男子にしては低い方である。勿論、それは超がつくくらいのコンプレックスである。

「ちなみに」

 唇を尖らせるミツヒロに向かってルーシーが話しかけた。

「明日にはまりあちゃんも帰国しますし、フジナミくんも呼んで久しぶりに全員集合といったところでしょうか」

 まりあ、の単語にミツヒロがゲッと喚いた。

「おや? 嬉しくないのですか、ミツヒロくんってば。んー、上手くいってないのかなあ、そちらの方は〜」
「べべ、別にそういうんじゃねえし。なんでもねーよ」
「……はぁー。呆れた、どれだけ根性が足らないんでしょう今の子は」

 なに、とミツヒロが睨み付けるがルーシーはどこ吹く風である。

「ままっ、まりあさんって、あのまりあさんですか!?」
「ん? なぁにストちゃんったら知ってるの?」
「ももも、勿論です。い、一年前のテレビ中継で見て一目惚れして以来ずっとファンだったんですから! その時決めたんです、彼女が大きくなるまで俺はこの童貞を守ろうと」
「はぁあああ!? ななっ何言ってるんだてめえ、このクソ野郎!」

 巻き舌混じりにミツヒロが叫ぶと背伸びしてストライカーの長い耳をひっつかんだ。

「……この耳、引きちぎってやる! てめえ変な事考えてやがったらマジでぶち殺すからなッ」
「わわわ! やめてェ、やめてよーっ! そんな乱暴しないでー!」

 争い始めた二人の姿は何かのアトラクションのショーのように見えた。それまで恐れ慄いて逃げ回っていた子ども達も、その光景に何かを感じ取ったらしくそれぞれ白熱し始めた。

 そんな様子を見ながら唖然とする修一に寄り添うようにルーシーはイチゴ牛乳をまた一つ啜った。





 小腹が空いてしまったので、太るとは思いつつもちょっとくらいなら……とリオは階段を降りた。夜食というのは一番太るらしいのだが、要は食べすぎなければいいのだ。それに食べてからすぐ寝るから良くないんだろう。寝なけりゃいいじゃないか――本格的なダイエットは明日から始める事にしよう。

 リオがリビングの戸を開けると、暗いと思っていた室内に一箇所だけ明かりが灯っている場所があったので驚いた。慌てて電気のスイッチを入れると修一が座っているのだった。

「わ! びっくりしたー、何してんのよ修一ちゃん……」

 修一は珍しく酒なんか煽っているらしかった。手元には開かれた状態のアルバムが置いてある。修一はその前で頭を抱えてどうやら静かに泣いているらしかった……。

「ちょ、ちょっとー……どうしたのよぉ。酒まで飲んじゃって……うわ! どうしたの、その頬。シップなんか貼っちゃって」
「――昔は可愛かったんだよ……、道端に咲いてるタンポポとか見て綺麗だって喜ぶような子だったんだ……」
「は、はぁあ〜……?」

 まあどうせ弟の事なんだろう、とリオは思う事にして泣き伏せる修一の事をそっとしておくことにした。




平和な章はここまででおしまいでした。
時間軸がやや分かりづらいですね。
次の章からは元に戻ります。



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