04-2.懲りない奴ら
傍目から見れば何のやり取りなのかさっぱり分からず、修一は完全に蚊帳の外なのだ――ルーシーはふうっとため息を一つ吐いた。
「……で? 受けるのか、コレ」
ミツヒロが改めて問いただすとルーシーから返ってきたのは珍しい言葉だ。
「ギャラは?」
「お? そこ気になる? 珍しいな、ルーシーが金額気にするなんて」
「まあね。で、おいくら程頂けるって?」
ミツヒロがすっと五本の指を立てる……つまり五十万、というところか。しけた金額だな、とルーシーがつれない様子でその指を無言のままに見つめた。
「何だよ。不満か、五百万じゃ」
「……」
ごひゃくまん。ルーシーがそこで少し眉根を吊り上げたがそんな目に見えぬほどの繊細な表情の変化に、ミツヒロは気付く筈も無かった。
――五百万……それだけあればみんなで山分けしてもリフォームできる額は残るか……
「ちょっと計算に時間がかかっただけです。……受けましょう、その依頼」
「よし、そうこなくちゃな。――じゃ、それだけ告げに来ただけなんだよ。夜分に騒がせて悪かったな」
ミツヒロがよっこいせ、とその場から立ち上がる。
「――すぐに動く事になるだろうし、それまでに色々準備しておけよ」
そう付け足すとミツヒロは修一と、その子ども達を一瞬だけチラっと意味深に見つめた。
「ええ。そうですね」
ルーシーが答えてから立ち上がった。ミツヒロが軽く手を上げて出て行ったのとほぼ同時に、修一がルーシーへと近づいた。
「ナ、ナオ……」
「と言う事で兄さん。僕はどうもまた動かなくちゃいけないみたいだよ。言ってる傍から残念な話だねえ」
「だだ、駄目だ! もうあんな危ない真似は……っ」
当然のように修一がルーシーの腕を引いて引き留めようとする。心をはじめとし子ども達も一緒だ、ルーシーの両脚にしがみつきながら心配そうな視線を注いで来る。
「ごめんね。でも誰かがやらなきゃ、兄さんたちが笑って暮らせる世界にならないから」
「だ、だからって――」
修一がそこで言葉を切って、視線を下げた。
「ナオ、修一を悲しませちゃだめ……」
続けざま心が涙の訴えをよこす。だが――こんなところで立ち止まるわけにはいかないのである。
「……兄さん。心」
ルーシーが修一の手を握り返す。
「大丈夫、僕は死なないよ。絶対に」
「そんな事……、分からないじゃないか」
言いながらまるで自分が聞きわけの悪い子どものように思えた。というか、弟との立場が逆転したような気がした。いつもは自分がなだめる役割な筈だが――修一はさきほど自分が子ども達を守ると言いながら何も出来なかった事をふと思い出した。
「――なぁ、ナオ」
「ん?」
「その……、お前がいなくなったら――、今日みたいな事がもしまた起きたとしたら、お、俺がしっかりしなくちゃ駄目だな」
しどろもどろになりながら修一が言うと、ルーシーが肩をすくめた。
「それはまぁ、そうだね」
一瞬の沈黙のあと、修一の目に何か決意じみたものがちらっと浮かんだ……ような気がした。唇と引き結ぶと修一が絞り出すような声で言うのだった。
「だったら、あの……身を守る術くらいは教えてもらおうかな――す、すぐには完璧にはできないかもしれないけど!」
だめかな、と付け足してから修一がおずおずとそう切り出した。ルーシーがにこっと笑う。
「勿論だよ。明日にでもガ……、子ども達も集めて教えてあげる」
元より、修一から切りだされなくともそのつもりだったのだからとルーシーはもう一度微笑んだ。