18-3.猫は生きている
「……あれっ。やっぱり調子悪いなあ。何でだろう」
男は水の出が悪いそのシャワーに首を傾げながら、シャワーヘッドの部分を何度も叩いた。
「うーん……――やっぱりこれ、もう限界かなぁ。直さないと。水も出にくいし、何だか流れも悪い気がするなぁ」
男は独り言を呟きながら排水溝を覗きこもうとする。――いい機会だ、風呂場もトイレも全てリフォームとやらをしてしまえばいい。男はとりあえず身体を流し終えるとシャワーを元の位置へと戻した。
『現場の証言によりますと――……浴室の排水管の中に人間のものと思われる、に、肉塊の破片と……指が……詰まっていたとの』
「――何とかしてちょうだい! 匂いがもうすごいのよ……思い出しただけで吐き気が……おぶッ」
「そりゃあ、もうひどい現場だったよ。みんな勿論ゲーゲー吐いたさ、匂いもそうだし、あれを見りゃ誰だってゲロしちまうよ」
「駄目、手に負えないわ。夏場のせいも手伝ってもう最悪なのよ」
「いやー、現場のあの惨憺たる有様。思い出したくもないね。……あれをやったのが当時まだ十七歳かそこらのガキだっていうじゃないか? まったく。何でも、復讐だったんだってね。それにしたって恐ろしい話だよ、たった一人の人間をここまでの復讐鬼に変えちまうなんて」
「かつて、これほどまでに人間の狂気をイヤというほど教え込まれた事件があっただろうか? 間違いなく犯罪史に残る、猟奇事件だと思うよ」
「ああ。……後味の悪い事件だよねえ、アレも。少年もそりゃ恐ろしいけど、地下での虐待ショーって一体何だそりゃ?――もう、初めから狂ってたんだよ。この事件」
「あわれな、あわれな羊さん……」
それでも男は上機嫌のまま鼻歌まじりにシャワールームを後にすると髪の毛を拭きながら鏡の前に立った。リビングからはテレビから漏れる楽しげな声が聞こえてくる。兄がいつものようにソファーに腰掛けてくつろぎながら、それを眺めている姿が容易に想像できた。
「ここちよきかな、まどろみに……」
その歌詞といい、実に不思議な感じのする歌だった。口ずさみながら男はバスタオルで今度は全身の水分を拭い始めた。
「――お、っと」
ふと、何の気はなしにその二の腕に目を落とした。何度か努力はしたのだが、やはりそれは消えてはくれなかった。
醜い火傷の跡、だ。それは誰の目から見てもハッキリと数字の『17』と読みとれるのだから、もうたまったものではない。
男はいささか不愉快そうに顔を歪めたのちに舌打ちをした。こいつを見る度に、不快な出来事を色々と思い出す羽目になるのだから、とにかく忌まわしいのだ。男は嫌悪感を露わに、その焼き鏝によってつけられたナンバリングをじっと睨み据えた……。
To be continued..!次回、いよいよ戦況は中盤戦へと突入しちゃうんだなこれが!
静かに崩壊へと向かっていく世界の中で、一行は次なる脅威と対峙する事となる。
そして遂にあの人も……
若き王者が帰ってきたッ
どこへ行っていたンだッ 隊長ッッ!
俺達は君を待っていたッッッルーシー=サルバトーレの登場だ――――――――ッ お前それ好きだな!