18-1.猫は生きている
『――引き続き、『天使達の家』の事件についての続報をお送りします。庭から見つかった無数の死体ですが、虐待事件によって死んだ子ども達のものと思われる白骨死体とは別に比較的真新しい状態の遺体がいくつも発見されました――……遺体はどれも損傷が激しく……無数の暴行の痕跡が――……近隣の住民から、悪臭がするという声があったので――……水道管を切断したところ……』
ザァー、……と勢い良く流れる水の音。その中に鼻歌が混ざりこむのが聞こえる。随分と上機嫌なバスタイムをその主は楽しんでいるみたいだ。
「んーんーんんんー♪」
だが優雅な風呂を邪魔するように、シャワーの水が一瞬詰まったみたいにして弱まった。
最近、どうもシャワーの出が悪いのは気のせいだろうか? かれこれ築ウン十年だし、それも仕方がないか。そろそろリフォームなりなんなりしてもらわないと――と思うのだが前ほど裕福でもないみたいだし、また自分が稼ぎに出るしかないか……。
ふうっ、と男がため息交じりにシャワーから出て来るその不安定な湯を眺めた。
『なお、救出されたこの家の自称長男である男は意味不明な供述を繰り返しており、まともに話が出来る状態ではないとの模様です。それで、……えー……見つかった大人の遺体についての続報ですが、切断面や損傷具合、遺体に残されていた証拠から――……犯人は若い男性ではないかという見方が強く――……』
これは何だ。――そうだ、血の匂いだ。
嗅ぎ慣れた自分の血の匂いとはえらく違うものに感じていたが、紛れもない鮮血の匂いであった。顔の上にぽたぽたと男の首から流れて来る生温かい血液が落ちて来る。
いっさいの灯りのない暗い部屋の中、ナオはようやく意識がそこに戻ってくるのを覚えた。
実にあっけなく、くたばった。
自分はいくら殺してくれと願ってもしぶとく生き続けていたのに、どういう事だ――自分の上に重なった邪魔な死体をナオは蹴っていささか乱暴にどかした。
どすん、とその大柄な男の死体がフローリングに投げ出された。男は自分と同じように素っ裸なのだがそれも部屋の暗さゆえよく拝めない。
――良かったね、オニーサン
ナオが足元に転がっていると思われる男の遺体を爪先でつついた。やはり反応は無い、もう死んだのだろう。
あらら……あらららら?