前半戦


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13-1.凶器完成



 山羊のマスクを被った、脂肪、もとい筋肉の塊はゆったりとだが確実にその距離を縮めたらしかった。雛木はたじろぎもせずに、それどころかもはや完全に闘争心を剥き出しにしているようだ。目の前の、表情の窺い知れぬ大男相手にも怯む事無く言い放つのだった。

「てめーは機械じゃなくちゃんと生身っぽいな……まあ食ってもどうせマズそうだから、ブッ殺すだけにしておいてやるけどね。腹下すのだけは僕、ごめんなんだよね〜」

 余裕たっぷりに言いながら雛木は右の拳をバシーンッと左の手の平に殴りつけた。その鬼気迫る状況を、創介は少し離れてついつい見守ってしまうのだった。

「おい、創介!! ぼーっとしてないで早いとこやっちゃってくれよ」
「あ、ああ……ごめん」

 つい縄を切るその手を止めてしまうのを叱られてしまい、創介は慌てて再びその手を動かし始めたのだった。
 確かに雛木の化け物じみた――いや、化け物そのものだったか……――身体能力はもうイヤって程知ってるけど、でもあれは相手が悪すぎるんじゃないのか? 体格の差なんかもう歴然だし。力負けしてしまったらもうそれまでだ。ジ・エンドってやつである。

 創介が持っていた包丁を動かし動かし、何とかして二人に絡みつくがんじがらめの縄を解いてやった。

「よっしゃ、完了だ! あとは……」

 創介が双子と共に立ち上がるが、早速のように凛太郎がうっと呻いて身をよじらせた。何だ、と創介は背後を振り返る――そこにいたのは凛太郎達に襲いかかってきた、あのオカッパ頭のメイドであった。

 更にその手には鎖鎌からグレードアップしたのか鎌の代わりに巨大な鉄球がつけられた武器があるので、そりゃあもうビビらない方がおかしいってなもんで……おまけに鉄球には刺さると痛そうなトゲ付きだ。

 華奢な見た目とは裏腹に、メイドは難なくその鎖を使って鉄球を振り回し、そしてずんずんと無表情でこちらに迫ってくるのだから恐怖は三割り増しだ。



「え゛ッ、いや、ちょっ……ま……マジですか……」

 創介がへへっ、と引き攣った笑いをこぼした。もう、正直言って笑ってる場合じゃない、彼の言葉を借りるならいわゆるリームーな状況でしかないのだが。

「ちっ、こいつ……!」

 呆然とする創介から、凛太郎は苛立った口調と共にその肉切り包丁をさっと奪いあげた。あっ、と短く声を残す創介を無視するようにすり抜けて凛太郎はメイドにめがけて懐に飛び込んで行く。勿論メイドは顔色一つ変えず、バックスピンの要領でその重たそうな鉄球を物ともせずに振るった。それは紛れも無く凛太郎の顔をめがけて振り下ろしたようであった。

 が、凛太郎はその分厚い包丁の刃で鎖の一撃を受けた。ガキンッ――と重たい金属音が響いた。片手で受けた為か包丁を握った手に少し痺れが圧し掛かったが、鎖での一撃は大したものではなかったのだろう。

 凛太郎のいささかきつめの瞳がすぼまった。そしてその唇は、間違いなく笑っている。

「――さっきのお返しだぜ、オラ!」

 横手に身体を倒しざまに、凛太郎は片脚を伸ばしてメイドの膝辺りを蹴り上げた。重たい鉄球を抱えていたメイドの華奢な身体はあっという間にバランスを崩す。

「こんの、ガラクタが!」

 凛太郎が包丁を今度は両手で握りしめる。メイドはやはり無表情のままに、起こした身体を立ち上げようとしている。その顔めがけて、肉切り包丁の分厚い刃が勢いを伴ってぶつかった。

 確かな手ごたえと共に、何かを砕くような音が響いた。次いで機械が故障した時のような、電子音にも似た不規則な音がそこから漏れて来るのが聞こえた。何とか立ち上がったメイドだったが、ふらふらと夢遊病患者のごとく徘徊を繰り返した後に――その場に崩れ落ちた。
 脳天にはそりゃあもう綺麗に包丁が突き刺さったまんまだ。血の代わりにオイルか何かの液体がドロドロと流れ出しているのだった。

「……あばよ」

 呟いてから凛太郎がその包丁に手をやった。いささか乱暴に引き抜くと、それを再び掲げた。少し離れてその光景を見ていた創介は思わず目を塞ぐしかなかったのであった。




この絵、電子書籍になったら是非とも
元のサイズで拝んでいただきたい!!
描き込み量が凄いんですよ。
床が剥がれ落ちて、異世界と繋がっている
部分がちらっと露出していたり
壁にずらーっと女の子の写真が貼られていたりします。



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