前半戦


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01-1.霧の中に何かいる



 再び集合したホールにて、一同は互いに顔を見合わせた。明るいところで改めて顔を見合わせると、全員すっかり疲弊しきっているのがよく分かった。

 持ってきたラジオの電源を入れると、若干ノイズが荒いながらも何とか声が聞こえ始めた。

『前回お伝えしました避難所についてですが、現在のところ避難の要請を受け入れられません――、現在、……――は取り急ぎ復旧を……通信機能は完全に麻痺……』

 ザザザー、とやはり耳障りな音を織り交ぜながら、ラジオは淡々と今、全世界が陥ってるのであろうその惨憺たる状況を伝えている。

「もはや地獄……、だな」

 有沢がぽつりと呟いた。

「ああ、そうだね。一年前の悪夢が再び――ってとこかな。……そういえば君らは一年前の事件の事も知らないの?」

 ミミューが有沢と雛木に尋ねると、しばしあってから口を開いたのは有沢の方であった。

「その時はこの辺にはいなかったから、何となく程度にしか」
 静かに首を横に振る有沢の隣では、雛木も同じなのだという事か腕組みしたままで気難しい顔をさせている。

「まあ局地的な事件だったからねぇ、あれも……被害はまばらだったようだし」

 それでミミューがふうっとため息を吐いてから帽子を被り直した。

「あれっ。そういやあいつらは?」

 その事態に初めに気付いたのは創介で、さっきまではいた筈の双子が見当たらないのだ。あのおかしな双子が。
 不思議に思って見渡していると、双子が再びその場へと姿を見せた。……現れた二人の姿を見て驚いたのは創介だけではない。

「えぇ!? な、なにその気合の入ったカッコ……」

 間抜けな声を上げながら指差すのは創介だ……もはや完全に武装している、二人揃って。戦争ごっこでもおっぱじめそうな勢いだ。制服の上から巻かれた弾帯ベルト、プロテクターに各部位に巻かれたホルスター。首から下げたゴーグルもまた何とも勇ましい。格好だけならば合格点だろう。

「俺達もお前らと一緒に戦うよ」
「えっ!?」

 真っ先に創介が何とも言えない声を漏らした。

「大人しくなんかしてられるかっていうんだ。世界が元通りになるまでおめおめと死の恐怖と隣り合わせになりながら過ごすなんて考えただけでも発狂しそうだぜ」

 凛太郎が威勢よく言い放つが、先ずはミミューが眉根を潜めながら呟いた。

「けど戦うって……、君達。今までも見て来たようにこれは単なる不良同士の喧嘩とは違……」

 言い終えぬうちに一真が無表情のまま手にしていたライフルをちゃっと構えた。螺旋階段の上、たちどころ高そうな壷めがけて精密に発射した。チュン、と風を切り裂く様な音がした後に弾は見事に壷へと命中したらしい。哀れに粉微塵になって散らばる壷が、遠巻きにだが見えた。

「……僕はちょっとだけ銃が使える」

 一体どこまでがその『ちょっと』なのか分からないが――言いながら一真は白煙の立ちこめるライフルをすっと降ろし、一真はボルトを操作させて空薬莢を排出させた。彼らに襲われた際に両手首を拘束しておいて良かった……と改めて思いながら凛太郎の方を見れば、だ。

「横に同じく」

 ドヤッ、といった具合に凛太郎が意地の悪そうな笑顔で言った。

「それに俺ら、自慢じゃぁないけど人間がどこを破壊されれば動かなくなるのか、よーく熟知してる。こんな状況だ、怖いのは死体だけとは限らねえ。生きた人間も十分危険っていう……そうだろ?」

 そんな風に二人を仕上げてしまったのは他でもない、その生きた人間たちなのだから世の中は既に狂っていたのだと改めて思わされる。全くゾンビなんか現れなくても十分歪んでたんだろう、この世ってヤツは……。

「カウンター食らわせてやるよ。ぜってータダじゃ済まさねえ」
「そりゃあ随分と勇ましいが……、ごほん。そのミリタリーグッズはどこから入手したの?」

 先程から付き纏う疑問を、ミミューが口にした。

「ここの屋敷の住人、ミリオタだったんじゃねーの? サバゲーでもしてたのか結構本格的なサバイバルグッズとかいっぱいあったぜ。まさか実銃があるとは思ってもいなかったけど! 鍵かかった場所にしまってあったけど、この事態に慌てて取り出したんだろうな。鍵、開けっ放しでさ。扉もさぁ盗ってくださいって感じで開いてたんだよ」

 凛太郎が背後を指差しながら言った。なるほど……金持ちの趣味にしちゃあちょっとマニアックではあるが――いやいや、金持ちだけあってか中々に上等そうなものばかりだ。入門用の安物とは違いそうである。


「しかしいいモン身に着けるとやっぱ変わるなぁおいーっ。それなりに〜は立派には見えるぜお前……」

 鹿にした調子で凛太郎に近づいた創介だが次の瞬間、ぎゃぴぃっと意味不明の呻き声を漏らしてその場に蹲った。……ちなみに両手で股間を押さえてぶるぶると震えているところを見るとまあ想像はすぐにつくのだが。

「言葉遣いには気をつけろよな、てめー」

 ショットガンを肩に担ぎながら、凛太郎が蹲ったままの創介に言い放った。

「う、うぉおお……ち……、チンピー蹴りやがった……クソガキめ、クソガキめ……」

 セラにしがみ付きながらようやくのように創介が立ち上がる。セラはもはや無視を決め込んでいるのか何も言わないし目も合わせないのだった。

「よし、じゃあ早速みんな集合したところで車へ行くかい」
「全員乗れる? この人数だけど」
「ファミリーカーだもん、平気平気。まあちょっと息苦しいかもしれないけど」

 ミミューが笑いながら言うと呻いていた創介が内股気味によろよろと歩きながら尋ねて来た。

「なぁ神父、思ったんだけど何であんなでかい車なんか買ったんだよ。あんた独身でしょ? 別に家族いないのに」
「……。そりゃー、家族はいなくとも友達はいますし、みんなで出かけることくらい珍しくないでしょう?」

 その答えに創介は疑問を抱く事なく納得したらしい。それ以上、深く突っ込むような事は何も言いはしなかった。

「あ、言い忘れたけどみんなシートベルト忘れずにね」

 一同を乗せた車が再び出発する。まず助手席には同じくセラが乗り、その後ろの座席には創介と双子。更にその後ろにはナンシーと雛木、有沢がいる。

 皆大人しく乗車していてくれればいいのだが、とミミューは思いながら車を走らせるのであった……。



寿司屋でメニュー見てるときに
「クレイジーメロン」っていうのがあったから
何かすげえ名前だな! と思って二度見したら
「クインシーメロン」でした。眼鏡かけろゃ

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