前半戦


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10-5.人類SOS



「さてと。もういっかなー」

 独り言をぼやいてから、エミはカップラーメンの蓋をちらっとめくった。隙間から湯気が立ち込めて、それから割り箸を突っ込んで中をかき混ぜる。麺がほぐれたのを見計らうように後入れスープの素を入れると、途端にとんこつ仕立ての醤油ラーメンのいい匂いが立ち込めた。

「うー、まだ十一月だってのにもう真冬みたいにさびぃ……」

ぶるぶると震えながらエミは中央のヒーターに冷えた手を向け、椅子を持ってきて腰掛けた。

「寒い日にはやっぱラーメンよねぇ。いっただきまーす」

そう言って手を合わせるとエミは上機嫌そうにラーメンを啜った。

 インスタントとは言えやはり一つ三百円近くするだけあってか、美味い。しかし容器にやたら凝っているせいなのか中身は少々上げ底気味で量が少ないのが玉に傷といったところか――ずるずると麺を啜りながらエミは背油入りスープも一緒に飲んだ。

 しばらくカロリーの摂取を控えるつもりだったがもういい、ダイエットは延期だ。食った分また明日、ジムで発散すれば問題なかろう……とその濃厚な汁を味わうエミだったが、そんな優雅な食事タイムをブッ壊す迷惑者が現れる。

「――っは、ぁ! エミちゃん!」

 途端に騒がしくなったかと思うと、乱暴にその扉を開けて入ってきたのはミミューだった。ミミューは教会に入るなり足元からどたんと崩れ落ちた。

「な、何ですかぁ一体!?」

 ミミューはすぐに立ち上がると息を切らしながらも扉を閉め、厳重に鍵をして更に傍にあった長椅子を引きずって扉の前に置いた。

「ちょ、ちょっとちょっと……騒々しく帰ってきたかと思えば。何だって言うんです?」

 当然、意味が分からずにエミはその行動に口を挟むのであった。

「ぜっ、ゼェ……ハァ、そ、外に、ぃ……ウジとかミミズまみれ、ぇ」

 見りゃ分かるがミミューはもう全力で走り込んで来たのだろう。

 ひどく息を切らしていて、へたりこんだまま息をするので精いっぱいそうだった。

「はぁ!? ていうか! 人がミミズ食ってる……じゃねえ、ラーメン食ってる時にミミズまみれは無いでしょうよ。大体神父さまってばいっつもそうですよ、この前だって人がカレー食ってる時にホモセックスする前に腸内の物をどうこうするとか言いだすし、その次は私がバナナ食ってたらその彼氏とやらのナニのサイズがどーとかどっち曲がりだとかやれどーーーうでもいい情報を聞かせてくるし! 悪気無いにせよいちいちもうねぇきったないんですよアンタって奴はッ! ったくもうキモイんだから、あんたが四十代だったらセクハラで訴えてやるところですよ!」
「良か、った――はぁ」
「……えっ?」

 エミが落ちて来る横髪を鬱陶しそうに払いのけながら呟いた。ミミューの顔は真剣そのもので、何かの冗談ではなさそうだ。

「無事で、良かった……っはあ、は」
「あの、神父? さっきから一体何が……」

 ようやく呼吸が整い始めたのかミミューが傍の椅子に手をかけながら立ち上がった。同時に歩き出し、どこへ向かうのかと思えばその手にはハンマーと数本の釘が握られていた。当然エミにはもうサッパリわけが分からない。

 ミミューはどこからか外して来たドアを窓に張り付けると途端に釘を打ちつけ始めるのだから益々意味が分からなくなってしまう。

「……エミちゃん、話したところで君に信じてもらえないのは百も承知かも知れないが……。君の好きそうな事態が起こったぞ」
「――。は?」

 ハンマーが釘を打つ小気味良い音が教会内に響き渡る中、エミは次いで話されるその信じ難い話に耳を傾けていた。



「……。マジっすか」

 全部を聞き終えて、当然エミは信じられないといった風に顔を歪めた。一瞬、頭がおかしくなったんじゃないかコイツと思った。元々おかしな発言の多いヒトではあったが、何を言い出すのかこの神父は――エミは無数の意味が含まれたような何とも言い難い顔をしてミミューを見つめた。

「そうだろうね。そう言われると思ったよ。何ならネットに繋いでみたらどうかなー。多分今頃祭り騒ぎなんじゃないのかな、君の好きな2ちゃんねるあたりでは」
「ハァア!? そういう餌には釣られませんからねっ」

 言いながらエミは修道服のポケットにしまってあったスマホを取り出すと慣れた手つきでブックマークを開こうとする。

「――あの〜。ていうか、電波が無いんですけど……」
「だろう? エミちゃん、悪いんだけどこの板、窓ガラスに打ちつけておいてもらえる?
 僕は離れの方へ行って使えるものが無いか探してくる。あ、それと――」 

 エミはまだ半信半疑ながらにもその金槌と板を手に取らざるを得ない。まだ完全に信じ切ったわけではないのだが……。

「地下室から武器を用意しておいてくれるかな。避難してきた市民を受け入れるようにもしないと……食糧と水はあったよね。あ、そうだ。ラジオもお願い」
「は、はぁ……」
「よし」

 エミはやっぱり相変わらずのポカン顔のままとりあえず釘を打ちつけ始めた。ミミューは外へ出ると辺りに気配が無いのを確認して、注意深く一歩踏み出した。

 気になる事は色々とあった。この街の市民のことだってそうだしそもそもこの状況が何なのかも知りたかったし、それと何よりも。

――ガイは無事だろうか?

 彼がそう簡単にくたばるとは思えないが職業柄、危険な状況と隣り合わせであるのは間違いない。ひとまず無事を願うより他ないが……ミミューは離れへと走ると、その鍵穴へと鍵を差し込んだ。

 ふと、その時一瞬空耳かと聞きちがえるほどに小さく人の声がした。本当に一瞬で、風の音かと思うほどであったが――ミミューは油断する事は無く背中のショットガンに手をやった。

「……」

 息を潜め、耳を澄ませた。

――やはり……

 もう一度、その声がした。声は二人分聞こえてきた。悲鳴のようだ、違いない――ミミューは立ち上がるとエミの元へと急いで戻った。

「エミちゃん、すまないね。ちょっと近くを見て来る。悲鳴が聞こえたもんで」
「そりゃ構いませんけど、大丈夫なんですか?」
「多分、ね。危なかったらすぐに引き返すよ、エミちゃんも気をつけて。武器、一応用意しておいたほうがいいよ」

 それだけ告げて慌ただしく教会の扉を閉めた。ミミューは走り出すと徐々に近づいてくるその声の方向へと走った。





ホラーと言えば気になるのが
怖すぎてお蔵入りになったという
シェラデコブレの幽霊だね!!
探偵ナイトスクープでもやってたけど
いっぺん見てみたい!
怖すぎて発禁処分、ってのは
今時は珍しくない宣伝商法なんだけど
これは凄い古い作品なんですよね〜。
当時の人たちからすると本当にショッキングだったんでしょうね。
目が肥えた今の時代に見ても怖くないのかもしれないけど
逆に見てみたいですな



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