ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 09-2.ふたりの再会


 口を噤んだままの一同の視線が、一斉にミイの方へと注がれる。ミイは怖気づくこともなく、至って冷静な調子のままに皆を見据えながら続けた。

「逃げたところで多分……新たな隠れ場所を見つけられなかったら捕食されるのがオチだろうと思う……。運良く自衛隊に保護してもらえるかもしれないし、それに賭けてみるのも無しとは言わないけど――あとさっき、あの女性が話した通り見た所この避難所には老人や子どもの姿も目立つ。ハッキリ言って日暮れまで体力が持つかどうかさえ危うい」

 突然現れた、それも見たところ只の高校生風情に口出しされたのが気に入らなかったのか二十代そこそこくらいの青年が立ち上がって怒鳴った。

「けど! ンな事言ってたらこのまま俺達はあいつらの餌にされちまうんだろ、じょーだんじゃねぇっ!……動けない奴の事なんか構ってられるかよ……」

 そうは言いつつもやはり後ろめたさはあるのか、青年は抱き合って俯く老夫婦の方をちらりと一瞥した。それから申し訳無さそうに、そこから視線を剥がしたのだった。

「……戦うんだ」

 そんな青年に向かってミイが呟いた瞬間、青年は伏せていたその視線を持ち上げた。

「ここを砦にして戦おう」

 続けざま発されたその言葉に、青年がズズッと音を立てて鼻を啜った。
 そこでようやく彼が泣いているのだと、ミイは知った。青年は呼吸を整えてから口元を押さえつつ、ようやくのように言葉を発したのだった。

「た……、戦う価値があるのか? 自分が死ぬかもしれないのに、他人を守る意味が?」
「――チャンスはある。散り散りになって逃げるよりも、今後の事を考えたらここを守りきるべきだ」

 それからミイは自分の背後で、こちらを何か縋る様に見つめる避難者達をぐるっと見渡した。再び、頭を垂れて泣き啜る青年を見据えた。

「それに俺は……、俺は、人間である事を恥じたくないから」

 それはとても飾り気のない、実にミイらしい言葉であるとユウは聞きながら思った。

「だからここに残って戦う……」

 続けざまに淀みなくそう言うと、いよいよ青年はハッキリと涙を零し始めたのが分かった。

「でも、強制はしない。逃げるのなら今のうちがいいと思う」

 そう言ってミイは残された時間が少ないのを知ってか、すぐさま振り返る。ある者は座り込んでまたある者は何をするでもなく忙しなく動き回りそしてまたある者は祈りを捧げているのか両手を擦り合わせている――そんな避難所内を見渡してミイはすぐに近くにいた行動力のありそうな男性に指示を出し始めた。

「何か……何かバリケードの代わりになりそうな物はあるか? 壁代わりになるなら長机でも板でも何でもいい。とにかく少しでも隙間がある場所は塞げ、そこの窓は補強して……高い部分に関しては大丈夫だと思う」

 ミイが叫ぶと、それに促されるようにして座り込んでいた避難者のうち三人が恐々と立ち上がった。

「わ、分かった。ここに何かの役に立つかと思って持ってきた板とハンマーがあるから……」
「十分だ、それで少しでも守りを固めて欲しい。あとは……、俺達は外で奴らを何とか退く」
「退くって……相手は疲れを知らない軍団だろう。流石に限界があるんじゃないのか?」
「――いいや。勝算もないのにここで残ろうなんて俺は言わないよ」

 それからミイは、ユウ達が所持していた武器の入ったバッグを降ろして中身を見せた。

「俺達が貸せる武器はこれだけだ。一緒に戦ってくれる……いや、違う、戦って勝つんじゃない。『時間稼ぎ』をしてくれる人間は?」

 時間稼ぎ、という意味深な言い回しこそがミイの言う『勝算』に帰結しているんだろう。
 ミイが問い掛けると、先程外で揉めていた連中のうちの一人の男が立ち上がった。それは入り口で女の子のぬいぐるみを踏みつけていた若い男だった、彼はおずおずとだが挙手している。

「俺も……俺も、何か手伝えるか。当たり前だがピストルなんか撃てないし、出来る事といったら殴ったり切ったりの単純な動作ばかりだろうけど」
「十分だ」

 ミイが気休めのつもりか、軽く微笑んだ。

「兄ちゃん、言ったな。勝算があるって。つまりはどういう事だい、俺はちぃと頭が弱いんでそこんとこ理解しにくいんだが?」

 ふと、腕組みをして気難しげな顔をさせていたガタイのいいクマのような体格をした男が口を挟んだ。いわゆるガテン系という出で立ちか、日焼けした肌が目立つ一見すると強面な印象のある男ではあるが……ミイはそれにも威圧される事はなく、揺るがない様子のままに答えた。

「俺達がこれからやろうとするのは、あいつらを全てころ……、倒す事じゃない。ある一定の時間まで持ちこたえる、それだけです」
「一定の時間まで持ちこたえる?」
「はい。……僕らの味方が――助けがもうすぐここへ来る」

 その言葉にユウがはっとなったよう、顔を持ち上げた。味方、そうだ――ヒロシとノラがこっちに向かっている。その事もそうだが、ユウにとってはミイがヒロシを『味方』として認識してくれた事が何よりも嬉しかったりもした。




このへん、大幅に内容変わってます。
初版ではもっと呑気な感じでしたね。
あの呑気さもまたいいといえばいいのかもしれんが。


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