ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 08-2.ジャスティス・イズ・バイオレンス


 ルーシーはちら、と田所を見たが只それだけで、無遠慮に折りたたみ式の携帯を開くと勝手に電話に出た。携帯を耳元に宛がいながら立ち上がるとルーシーは二人から背を向けて歩き始めた。

 遠ざかって行こうとするルーシーに田所は尚も掠れた声を上げる。

「くそ……んごふっ」

 無防備に晒しているその背中めがけて、いちかばちかベレッタをお見舞いして風穴を開けてやるのも悪くなかった。そうだ……、どうせ死ぬというなら道連れにしてやる。

『――おい、もしもし……もしもし? 田所なのか!? おいおい、何だあの有様は! 今しがたテレビで見ていたが呆れたぞ! お前は野心家だが野望のあまり周りが見えなくなることが多すぎるんだよ。全く、スパイを放たれていた事くらい少し考えれば……もしもし? もしもし田所〜? おーい田所ちゅわん?』
「クソ食らえだよ、ばーっっっか」

 可笑しそうに言いながら、ルーシーは電話口で吐き捨てるように叫ぶのだった。それからルーシーは折りたたみ式のそのガラケーを片手で逆パカにして真っ二つにしてしまった……。

――笑ってられるのも今のうちだ……お前もここで死ぬ。アホのルーシー・サルバトーレめ、何が救世主だばっきゃろーふざけやがって。地獄で会った時分かるように頭半分吹っ飛ばしておいてやる!

 田所は薄れゆく意識の中で、ホルスターに手を伸ばした。まさぐって、銃を掴んだ。もうほとんど視界は見えなかったが研ぎ澄まされたその感覚だけはあった。残された確かなその触覚で掴んだ銃のグリップと、もう何十回、何百回と引いて来た引き金。後は照準を合わせて撃つのみであった。

 それとほぼ同時に、ふと、ルーシーは足元をちょろちょろと流れて来るものに気がついた。

『もしもし!? もしも……』
「おっと……、――忘れるところだった」

 笑いながらルーシーは電話を背後にぽいっと投げた。引き金を引こうとしたまさにその瞬間に、田所の足元めがけて飛んできたのは自分の見慣れた携帯電話、そして……。

――……

 見覚えの無いジッポライターがころんと転がってくる。蓋を開けた、そして火を点けたまんまの状態で。これが何を意味するのか、僅かな時間の間に推理する。そして自分達の周りが車から溢れだしたオイル塗れになっているのに気がついた。

 結論はすぐに出た。ちょっと待ってくれ、これはつまり……。

「爆発すっ、」

 ルーシーが振り返ることもせずに歩いたまま、耳を塞いだ。すぐ背後でまるで『西部警察』みたいに、ド派手に爆発が起きた。ルーシーの足元に爆発の衝撃で吹き飛んだタイヤがころころ転がって来て、そのままぱたんと倒れた。

「……死体を放っておくとゾンビになっちゃうんでしたっけ。まぁ元から腐った連中みたかったんで転化したところでそんなに変わらないですけどねェ〜、なんちゃって。うふふ、おもろ」

 背後で燃え盛る炎を見つめながらルーシーはここから元の場所にまで戻る手段をどうしようかなんて考えていた……まぁ歩くのも健康にはいいかもしれない、運動不足気味なのもあったし――なんて思いながらルーシーは足を進めて行くのであった。




暴走する車の上にひっついている隊長。
想像するとちょっと面白いよね。


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