ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 07-2.虐殺ヒーロー


「ちょっとぉ、修一ちゃんってば」

 一方で、その中継を見守っていたのはユウ達だけでは無い。リオに名前を呼ばれるが修一はそれよりも編み物に夢中になっている。

「何だい、リオ? 今、俺は手が離せなくて……」
「大変なのよ。何か、今からテレビで渦中の人を公開処刑にするって……って何それ」
「ん? セーターだよ、手編みの。どうだい?」

 そう言ってニッコニコの顔で修一が見せたのは、ハート柄が沢山刻まれた手編みのニットである。

――うわっ、ハート柄びっしりとか……まさか男物でそれなの!?

 率直な感想はそれだがリオは口に出さずに曖昧に頷いておいた。

「そ、それ……修一ちゃんが着るの?」
「まさかぁ。俺が着てたらちょっと問題じゃないかな、このデザインは」
「だよね……」
「ナオにあげるんだよ」
「……マジで」

 リオが目を丸くしてから、改めてその作りかけのセーターを見た。……うん、ちょっとこれは……自分が男なら全力で遠慮したい。というか女でもちょっと……というようなデザインかもしれない、ぶっちゃけて。

――無理、アタシがナオちゃんだったら絶対拒否する……

「ふふふ。ナオどんな顔するだろうなぁ、アイツの事だから『ありがとう、兄さん』って受け取ってくれるんだろうな」
「そ、そうかなぁ〜……えぇー……」

 苦笑しながら小首を傾げるので精いっぱいだった。正直言って、全体的に趣味の悪いそのセーターを見ながらリオは当初の目的が何だったかを必死に思い出す。

「あ! そうだった! そんなだっせぇセーターなんざどうでもよくて」
「え、何だい……というか今だっせぇって」
「来て! いいから! 大変なのよぅ」

 困惑した様子の修一の事はいざ知らず、リオは彼の手を掴むとテレビのある方へと引っ張って行く。

『射撃準備!』

 田所の合図で隊員達が一斉にライフルに手を掛けた。場内に溢れかえっていた、「殺せ」のシュプレヒコールが一層強まる。

――殺せ!
――殺せ!!

 田所は口元がにやけるのを堪えられない……、おっと、いけない。これが全国放送で流れでもしろ、またくだらん団体から俺宛へのクレームが殺到しちまう。偽善者ども。今に見てろ、この功績が認められて、俺は今より高みへと飛ぶつもりだ――そうしたらその時が、俺が世界の支配者にとって変わる瞬間だ。

『構え!』

 ライフルの銃口が、ちゃっと足並みをそろえて同時に構えられる。テレビを眺めている人々にも緊張が走る、ユウも、ミイも、石丸もヤブも……全てがスローモーションになって映っていた。

『……?』

 田所が異変に気付いた。
 田所だけじゃない、目ざとく中継を監視していた人ならば気付いたかもしれない。

『何がおかしい』

 田所が、ヒロシが笑っているのに気がついた。窮地に立たされておきながら笑えるなんて――恐怖のあまり気が触れたのか、それとも単なる強がりか。いずれにせよ、気に入らないのは確かである。田所は近づくと俯き気味のヒロシの顎を掴むと、ぐいっと不躾に持ち上げながら云った。

『何がおかしいかと聞いてるんだ!……よし、言い残した事があるんだな。あぁ、そうだ、忘れていた。――それくらいの時間はくれてやる。……それで? 何がおかしい?』
『おっかしいさぁそりゃ……』

 ひ、ヒロシ……? これは本当にヒロシなのか……テレビの向こうで見ていたユウ達だったが、流石にちょっと気付き始めた。まだ出会って間もない為に、ここまで気付けなかったけど、これって――。

 そのヒロシと思しき人物、が今度は確かにふふっと笑う。

『こ〜〜〜〜んなに綺麗に騙されてくれるんだもの。――おかしいったら無いねぇ、えへ、へへ』

 なにぃ、と言い返しかけた田所がようやく言葉の意味を察知したらしい――途端、その手をバッと離した。それから、血が全部抜けたんじゃないかと言うくらいに大いに青ざめてみせて叫んだ。

『こ、こいつ……俺のオモチャと違ぁあああう!』

 喚き散らしたが遅く、ヒロシに扮した……そう、ルーシーが既に先手を打って攻撃を開始していた。まずは左右にいた隊員達からリタイアだった。左側にいた隊員は肘内が鳩尾に華麗にヒットし、一発で効かされてしまったらしい。右側にいた一人が慌てて肉弾戦で挑むが、振り上げた拳の手首をまずは両手でとられたかと思うと、がら空きになっている腹部めがけて前蹴りをもらっていた。

「どぁっ、」

 短い悲鳴を残し倒れようとするそいつの手を掴んだままだったが為に、床に崩れることは許されず。隊員はルーシーに掴んだ腕ごと取られてしまい、それを首から背中に回される形で拘束されてしまった。

 盾代わりにされてしまった隊員は、自分の腕がまるで自分のものでないような感覚と、何が何やら分からないままにこうなってしまったという軽いパニックとで悲鳴に近いうめき声を漏らしながらじたばたともがいた。思うように動ける事すらならず、もはや脚を動かす事も、歩き出す事も全てはルーシーの意のままにされてしまっている。

「な……ん、んなぁ……ッ!?」

 その様子にぱくぱくと酸素を求める魚の如く口を開いたり閉じたりするのは田所で、すぐさま田所はそのルーシーの背後で茫然としている隊員にアイコンタクトを促す。

――ばっかやろう! 何ビビってんだ! やれ、背後から襲えよぉ!

 その訴えを受けた隊員であったが、彼はもう足が竦んでいるらしい。

「う……うわぁああ!」
「あぁっ、馬鹿! 逃げるなアホタレ、給料さっぴくぞ!」

 もう限界、とばかりに一人は戦意喪失してあろうことか敵前逃亡である。ルーシーはそんな奴は勿論構いもせず、今しがた拘束した隊員を盾にしたままで周囲を見渡した。




本当に強引だよね。
ひろぴーと隊長の入れ替わりは分かるけど
それを間違えちゃう田所さんってどーよ。
まあそんなんだから出し抜かれちゃうんだろうけど。


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