ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 05-7.僕の名前は狂気の救世主

 彼の置き形見であろうボウガンを拾い上げて、勇ましく立ち向かう事も出来るのだがここは何もしないのが賢明というものだ。……というより何も出来ない。

「また! またッ!! またぁッッ!!! また修一兄さんに心配かけさせるじゃないか馬鹿野郎がっ! クソ地獄に落とすぞこのおフェラ豚が!……あと、それとなあ……毎日毎日、兄さんがお前らみたいな連中を見て胸を痛めてるんだよ。ああ〜〜? あの人が悲しむ様な事があってはならないんだよ、分かるか? 恥を知れ、この俗物どもが!」

 ルーシーが震える声で一頻りに叫んだ後、突き刺した釵の柄を右に切った。みし、とルーフの捻じられるような軋む音がして同時に中でもがき苦しんでいる男の身体がそれに引っ張られるように僅かに逸れた。

 ひっ、と裏返った情けない声を上げ、横で見守るばかりの男がドアに背中を突く。釣り針にひっかけられたエサみたいになってしまっているかつての仲間の事はもはや見捨てて逃げる態勢に入っていた。ちなみに下半身がぐっしょりと濡れていたが大した問題では無かった……。

「……答えなし? おい聞いてんのか、この野郎ッ! タマ落としたか!」
「ひ、ひいいぃ……」

 答えようにもほとんど屍と化した彼には答えようがないようであるのだが……。もはや釣り餌状態の彼は絶命寸前の意識の中で、残り少ない呼吸を繰り返すだけであった。

「あちゃー。あいつまーたキレてやがる」  

 そんな車の上での交戦(と、言うよりはもはや後半からは一方的な嬲り殺しに近いが)――を見つけたのはまた別の人物であった。

「かかか、勘弁して下さいよお兄さん!」
「あぁ〜んっ!?」

 ルーフの上に座りこむルーシーのマントを引っ張りながら懇願めいた声を上げるのは投げ出されていたヒゲの男だった。

「お、俺達、つってももうほとんど残ってないけど、心を入れ替えますんで! もう悪い事しないからどうか命ばっかりは……」
「ほっほーぅ?」

 ルーシーが頷きながら突き刺していた釵を引っこ抜いた。刃の先からは当然の様に赤い血が滴っている。ルーシーは釵の柄をバトントワリングでもしているみたいにハンドスピンさせて血液を払う。そしてゆっくりとルーフの上で立ち上がった。

「面白いじゃないか……悪党が生まれ変わるなんてちょっと興味が沸くね。聞かせてもらおうか、どんな風にそうするつもりなのかな?」
「……なーんて言うと思ったのか! 死ねよダボスケ!」

 ヒゲの男がシャツを捲ると、ズボンに忍ばせてあったハンドガンをするっと取り出した。ルーシーが僅かに眉根を潜めたが、今度はヒゲの方がコンマ一秒差ほどで早かったようだ。

「勝ったッ! 第一部完!……これで俺の人気、間違いなし! くたば、」
 銃声が確かに一度……いや二度に渡り響き渡る。だがしかし、血を流したのはルーシーでは無かった。じゃあ一体、誰だと言うのだ――無論、答えは二つに一つでしかない。
「ろぇえ……?」

 ヒゲの指先が、綺麗に吹っ飛んでいた。かろうじて残った親指と小指と、薬指の付け根。それ以外は消失し、代わりに剥き出しになった肉と骨、真っ赤な血がびゅうびゅうととめどなく溢れ出ているばかりなのだった。

「あ、あれあれ……無いよ、俺の指が……」

――畜生これじゃあもう車の運転が出来ねえよ。これが済んだらまたあの頭パー女のとこでビールでも煽ろうってなもんだったのに指が無いんじゃあビールの缶も開けらんねえ! これじゃあ、これじゃあ、これじゃあ、これじゃあ……

「――あれまぁ、ミツヒロくん。遅刻ですねぇ」

 ルーシーが安堵した様な笑みを口元に浮かべながら横目で歩いてくるその人物を見た。棒付きキャンディーを舐めながら余裕をかまして歩いてくる少年は、そのどちらかといえば小柄な身体とは不釣り合いのライフルを担いでいる。

「うっせえ、隙見せといて偉そうに説教垂れてんじゃねえよ」  

 ミツヒロと呼ばれた少年は眼帯のせいなのかやたらとドスのきいた印象でその年ぐらいの少年にしてはやけに据わった目つきをしている。の、割に背丈はそこまで無いせいでどちらかと言えばいきがった中学生にしか見えないのが大半の意見だろうが。

「おやおや、僕にそんな口を叩けるなんてミツヒロくんは随分と出世したんだねえ。あれだ、もう一回僕に強姦されたいと見たね」
「ふざけんじゃねえ、二度とごめんだクソブス。ちっ、見下ろしやがって気に食わねー」  
 ただでさえ身長差のある二人なのだが更に高い位置から見降ろされて敗北感もひとしおだった。

「あれ。フジナミくんは?」
「……知らねえ、あいつすぐフラフラどっか行くから」  

 男達の悲鳴や泣き声ももはや耳には入っていないらしい。もはやいない物、ほぼ空気みたいなものとして扱いながら、二人は平然とやり取りを交わしている。

「……全く。フジナミくんは遅刻が多すぎますねぇ、僕らの信用に傷が付きますよ」
「信用、ねぇ。ハッハー……」

 信用、という言葉のその響きに可笑しそうにミツヒロが小首を傾げた。

「さてと。じゃあフジナミくんと、後はまりあちゃんの集合を待って出発しましょうか」  
 ルーシーがひょいと車の屋根から飛び降りる。

「お兄さんのピンチと知ってこんな危ない中わざわざ帰国してくるなんて……お兄さん思いのいい妹さんですね。泣ける話じゃあないですか、こりゃ」  

 独り言のようにルーシーが呟いてから、武器を出したままである事に気がついて、手の中の釵を見た。もう一度血を払ってからルーシーはそれを腰に携えている鞘にしまいこんだ。

「ブラコンどもめ、揃いも揃って。特にお前だよお前。いい大人が何をやってんだ……」
「僕? 僕の使命は世に蔓延るカスにも劣る害虫どもを刈り取る事ですよ」  

 言ってルーシーがにっこりとそれはそれは愛らしい笑みを浮かべるのだった。その笑顔を受けてミツヒロは内心で何か、本人には決して言えない毒を吐いておくのだった。

 しかしあれだ、そう言っておいて自分の方こそ二十歳を越えてまともな定職にも就かずにこんな得体の知れない男の下で何をやっているんだろうか。ルーシーを罵れば罵るほど虚しくなりそうだった……。




猫をいじめる奴はみんな死ねばいいんだとばかりに
暴れまくる隊長のベーゼがやばいですね。
この世界では猫・小動物をいたぶる奴は
殺されても仕方のないくらいの重罪なのだよ
隊長の身体能力はトニー・ジャーのアクションを
参考にしてたりするのですが
友達がトニージャーを見るなり「名倉にそっくり!」とか
言い出したのだけど確かに似てるかもしれないけど
お前その名倉はマジで凄いんだぞ。
ワイヤーなんか一切使わないで
走っている車の下をズササーーーと
スライディングで通過したり
めちゃくちゃ高い障害物もジャンプでひょいーと飛び越えたり
走りながら凄く狭いガラスとガラスの隙間をも
あっさりと通り抜けてしまったりするんだぞ。
どんだけ運動神経ええんや。


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