ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 01-2.天誅、お見舞い申し上げます

先の戦いから既に体力のほとんどは消耗していたし、とうに限界を超えた気がしていた。全身の筋肉がもう、悲鳴を上げている気がしてならなかったが戦い続ける以外に選択肢は、ない。自ずと強張った視界の隅、血まみれのピンクのウサギが構えた巨大なナタが怪しく光る。

その存在を認めたかのように、ミイが刀をやや上気味に正眼で構えるとそれが引き金となったらしい。見た目だけは可愛らしいウサギがその姿に似つかわしくない大柄なナタを振りかざし、こちらへ向かって一目散に突進してくる。こちらも応戦の構えを取ろうとした矢先には、もう眼前へとそいつはいた。動きにくそうな図体をしているにも関わらずウサギは俊敏な動きであった。剣道部の自分でもその太刀筋を肉眼で捕らえるのが精いっぱいだ。少しでも判断を間違えれば、あの分厚い刃の餌食になって……、ミイはとっさにその初太刀を受け止める。

 そして想像したよりも遙かに大きな衝撃が来て、ミイはよろめく。太刀が止められたと知るやウサギはすぐさま後ろへ飛んだ、つられるようにしてミイも僅かに後退した。

――腕前自体はきっと二流だが……何て馬鹿力だ、受け止めただけで腕がジンジンする……

 解放されたその両腕が痺れているのに気がついてミイはごくりと唾を飲んだ。

「けどな――」
 ミイがややあってから怯む事無く言い放つ。

「負けるわけにはいかねえんだよ……俺は、こんなところで死ねない。ここを通せば……みんな、終わっちまうんだ」

 ミイだけでは無い、今こうして戦っている者たちも同じように考えている筈であった。ウサギが、その表情の窺い知れぬ顔のままでナタを構え直すと今度はヒーローショーよろしく、高くその場で飛んだ。いっそ笑いが出そうで、いや事実その唇は歪んでいたのかもしれないが。

「マジかよ……」

 呟く暇すら与えずに、ウサギのナタが振り下ろされる。落下の衝撃も相まってか、とにかく、先程の勢いとは比べ物にならない程の衝撃があった。がちんっ、と重たい、鈍い音がして、そのナタの襲撃で吹っ飛ばされかけたが自力でブレーキをかけた。尻餅をつくのは何とか逃れたものの、この勢いで攻められては刀の方が持たない気がした。腰のベルトに差してあるファイブセブンの弾はもうあと残り少ない、無駄撃ちだけは避けたい――確実に仕留められる時に撃たねば。

 ウサギがコミカルな笑顔を浮かべたままもう一度ナタを振りかぶる、ミイは慌ててそれを避けると捨て身の覚悟でウサギの胴体に突進する。しがみついて、そのナタを持った右手に組みついた。ウサギはものともせずにもう一度そのナタを振った。大した勢いは無かったものの、そのひと薙ぎは緩々とながらもミイの額を薄皮一枚ほど裂き、その黒い前髪をいくらか、はらはらとかすめ取った。

 僅かに斬られた額からつーっと血液が零れ落ちる。目の中に入らないよう気を配りながらミイは片手に握りしめていた刀でウサギを斬り付けた。今度はウサギの方から突き飛ばされた。ミイは投げ出されるのとほぼ同時に額を押さえた。痛みはほとんど無く、只、あぁ斬られたんだぐらいの実感しか無かった。

「――くそっ」

 ミイはすぐに右足を着地させるとしなる左足でウサギの横っ腹を蹴りあげた。重く、自分の身丈ほどもあるナタを振りかぶっているのだ。その隙を突けば――ミイの思惑通り、ウサギは全神経をナタへと注いでいた。無防備になった隙を突かれて、ウサギは後ろ側へとよろめいた。

――そうだ、そのまま倒れろッ!

 半ば祈る様な気持ちで言ってから、ミイは片手に握られた刀に全ての感覚を注ぎこむ。

「うわぁあああァッ!」 

 叫びながらミイは転んだウサギに向かい、助走を付けて走る。ウサギは手足をばたつかせながら、手放してしまったナタを探している。その格好では起き上がるのにも一苦労に違いない、奴が体勢を立て直すよりも早かった。

 ミイは喉元めがけて刀の切っ先を振り下ろすと、確かな手ごたえを感じた。それはほとんど抵抗なしにずぶずぶと沈んで行った。突き刺した状態のまま、ミイは一旦そこから離れる。首を刺すだけでは活動は停止しない――それはイヤというほど聞かされた。だから――と、ミイは腰に差してあったファイブセブンを抜き取った。

 刀がまるで虫ピンの役割でも果たしているみたいに、珍しい昆虫でも飾られている様に見えた。あるいは首からアンテナでも生やしているみたいにも見えた。ウサギはびくびくと痙攣し、ストッパー代わりになっているその刀を引きぬこうと手を伸ばした。

「――ごめん」

 それは一体、何に対して?……よく分からなかった。またあの感覚があった、自分が首を跳ねたあの瞬間、ゾンビが自分に呟いたあの一瞬の言葉。ミイはギュっとその両目をつぶると引き金を引いた。ウサギの頭左半分くらいが、スイカ割りのスイカみたいに真っ赤に爆ぜた。



ウサギマスクのキティ害多すぎィ!!


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