光るほうへ
(イタチ)


私が泣いているのはあなたのせいではないけれど、でも、じゃあ誰のせいなのかと言ったら、それはやっぱり、あなたなのかもしれない。



「俺がこの先どうなろうと、**には笑顔で生きて欲しい」

そんな自分勝手なわがままを彼が口にしたのはある土砂降りの日のことで、私はそれに同意することも拒否することもできずに、ただ彼を見つめることしかできなかった。
この先どうなろうと、ということは、この先どうにかなってしまうのだろうか。そしてそれを、あなたはもう解っているのだろうか。だけど、怖くて聞けなかった。聞けなかった自分に後悔したのは、やはり彼がどうにかなってしまった後だった。

幾日も泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、彼の言葉なんて、正直もうどうでもよかった。
本当にわがままな人だ。あなたがいなくなったら、私が笑えるわけなんてないのに。
そうして月日をかけてようやく立ち上がった私の前に突然現れたのは、私を絶望させた彼だった。

少しヒビの入った血色の悪い肌、真っ黒な眼に、息を飲んだ。
ああ、こんなこと、望んでなどいなかったけれど、でも、どうしてだろう。きっとこの涙は、辛くて流れているものじゃない。

「…**、」
「…い、イタチ、」
「これで…本当に、本当に最後だから…どうしても逢いたかった。」

恐ろしい程に黒い瞳が、私を見つめる。
遠慮がちに伸ばされた腕はぎゅうと背に巻きついて胸を熱くさせる。
こんなことされたら、また辛くなるだけなのに。なのに。どうしたらいいか分からない、整理もできない気持ちを爆発させて、止まらない涙が頬を伝う。
ざらついた唇が、悲愴に濡れた唇と重なる。これが最後だなんて、思いたくない。ねえ、自分でその術を解いたのならば、ねえ、そのまま一緒にはいられないの?
私とあなたは、もう、同じ時を過ごすことすら許されないのですか。

「泣くな、俺は**の笑った顔が好きだ、」
「嫌だ…いなくなるなんて、嫌」
「**、」

駄々を捏ねる私の両腕を強く握って、その両眼を両眼に注ぐ。
なにを言おうとしているのかなんてわからないけれど、それが私のこれからを晴らすような言葉ではないことくらい解る。どうせ、別れの言葉かなにかなんだったら、聞きたくない。強く首を横に振る私を制するように、彼がもう一度両腕を強く掴んだ。

「俺は、**のことを心から愛している。」
「そんなの、」
「だからお願いだ、」


笑ってくれ。


「…イタチは、いつも狡いよ」
「…」
「私の胸がこんなにも張り裂けそうなこと…あなたにはちっとも伝わらない」
「**にだって、俺の気持ちの全部は伝わらないさ」
「…」
「でも、それでも解りたい、解ってほしいと思うくらいに愛しているから、だから、最期の望みを聞いて欲しいんだ。」
「…イタチ、」
「…」
「何よりも…誰よりも、愛してる」

そう言って微笑んだ私を見て、彼は心底嬉しそうな顔をした。
私、上手く笑えてる?あなたが望んだ表情に、私は、なれている?笑ったはずなのに、涙は止まらなかった。

「ああ、」

次に会ったときはきっと、何があっても生涯を共に生きよう。


一層深く落ちた唇が離れて私が目を開けた時には彼はもう、居なくて。
ふと気づけば、首にかけられていたのは彼がいつも身に着けていたネックレス。

ごめんなさい、あなたは私に笑ってと言ったけれど。

心の中で謝りながら、私はまた、泣いた。


(20141103)



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