5 壊れてしまいそう






梓ちゃんが、入ってきたタイミングはある意味最悪だった。もう少し遅かったら良かったのに、心底そう思った。二人が会えば梓ちゃんが傷付くのは分かっていた。

赤司くんに気付いた梓ちゃんは踵を返して思いっ切り向こうへと駆けて行ってしまった。


「梓!!」


赤司くんも梓ちゃんの後を追って、走って行った。走りゆく二人の背中を眺めなら、しばらくぼーっとしてしまった。だって、今私が行ってももう間に合わないと思うから。




少しして、私も二人の後を追うように小走りをした。だいちゃんが早く行って来いって視線で訴えてくるから…。


「梓ちゃん!赤司くん!」


向こう側に梓ちゃんが見えた。下を向いていて、顔は見えないけど、一人で拳を握り締めているから、きっと泣いている。私が着いた頃には、もう話は終わったのか、赤司くんが横をすれ違った。
赤司くんの目は真剣だったけど何処か悲しそうだった。私は一瞬振り向いたけれど、そのまま前に進み、崩れ落ちた梓ちゃんを支えた。




「梓ちゃん…大丈夫だよ…」


「うぅ………さ、つき、ちゃん…………」


私に縋るように抱き着いてきた梓ちゃんに、大丈夫だよと言って優しく頭を撫でた。
それ以外にかける言葉が見つからなかった。他に何かを言えば、梓ちゃんは今にも壊れてしまいそうだった。



少し耳を澄ませば、だいちゃんと赤司くんの声が聞こえた。あのだいちゃんが、赤司くんに何か口答えをするなんて、よっぽど梓ちゃんの事、心配してくれているのね…。だいちゃんは色々言っているけれど、赤司くんも負けてはいなかった。まあ、至極当然なのだけれど…。赤司くんに勝てるわけないじゃない。



「大輝、例えお前でも手を出せば許さない、何故なら、僕はまだ、梓を愛している。」



その言葉が梓ちゃんに聞こえたかは分からない。だけど、お互い想い合っている2人がとても聡明で、尊い存在だと思った。





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